レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です。
今回は最近興味を持ち始めた、選好関係と呼ばれる2項関係と、選好の順序を数値によって表現する方法についてご紹介します。
全順序に関する数量化定理
対象の集合\(X\)に2項関係\(\precsim\)が導入されているとします。この関係が好み、すなわち選好関係(preference relation)を表現すると考えます。
\(x \precsim y\)かつ\(y \precsim x\)のことを\(x \sim y\)と書き、\(x \precsim y \)だが\(x \sim y\)でないことを\(x \prec y\)と書きます。\(x \precsim y\)のことを\(y \succsim x\)とも書きます。\(\prec\)と同様に、\(x \succsim y \)だが\(x \sim y\)でないことを\(x \succ y\)と書きます。
全順序の定義から、次の3つが成り立ちます:
つぎに\(\Leftarrow\)を示す。そのためには対偶を示せばよい。対偶は$$\forall x,y \in X,\ \lnot (x \succsim y) \Rightarrow \lnot (\phi(x) \geq \phi(y))$$であるが、完備性によりこの命題は$$\forall x,y \in X,\ y \succ x \Rightarrow \phi(x) < \phi(y)$$と同値である。ところが、\(y \succ x \)なるとき\(\{ z \mid x \succsim z \} \subsetneqq \{ z \mid y \succsim z \}\)であるため\(\phi(x) < \phi(y)\)である。以上で示された。■
この定理は\(X\)が可算無限集合の場合にも拡張できます:
(証明) まず\(\Rightarrow\)を示す。\(\forall x,y \in X, x \succsim y\)を仮定する。\(X\)の要素にてきとうな番号をふって\(X = \{x_1,x_2,\dots,x_i,\dots\}\)とし、二重数列\(S_{ij}\)を\(x_i \succsim x_j\)のとき\(S_{ij}=1\)、それ以外のとき\(S_{ij} = 0\)と定義する。そして、関数\(\phi \colon X \to \mathbb{R}\)を、$$\phi(x_i) := \sum_{j=1}^\infty \frac{1}{2^j}S_{ij}.$$無限級数が収束するのは明らかである。このように構成された関数\(\phi\)に対して、\(\forall x,y \in X,\ x \succsim y \Rightarrow \phi(x) \geq \phi(y)\)が成り立つ。\(\Leftarrow\)の場合は定理1の証明と同様。■
弱順序に関する数量化定理
次は、全順序の代わりに、条件を弱めた弱順序を考えます。弱順序とは、以下の2つの公理
をみたすような関係のことです。ちょうど順序関係から反対称性を取り除いたものになっています。選好を考えるうえでは、異なる対象を同じくらい選好することがありうるために、このような関係を考えるケースがあります。弱順序についても、\(X\)が高々可算であれば数量化定理が成立します。
(証明) \( \sim \)は\(X\)上の関係とみなすとき同値関係である。したがって商集合\(X/\sim\)が定義できる。\(X/\sim\)上の関係\(\succsim^\prime\)を$$x \succsim y のとき [x] \succsim^\prime [y]$$であると定める(ただし、\(x\)を代表元とする同値類を\([x]\)と書いている)とこれはwell-definedであり、かつ\(\succsim^\prime\)は\(X/\sim\)上の全順序である。したがって、定理1により実数値関数\(\phi^\prime \colon X/\sim \to \mathbb{R}\)が存在して$$\forall a,b \in X/\sim, \ a \succsim^\prime b \Leftrightarrow \phi^\prime (a) \geq \phi^\prime (b)$$となる。関数\(\phi \colon X \to \mathbb{R}\)を\(x \in X,\ \phi(x) := \phi^\prime ([x])\)によって定めれば、$$\forall x,y \in X, \ x \succsim y \Leftrightarrow \phi(x) \geq \phi(y)$$は成り立っている。■(証明) 定理3の証明の「定理1により」を「定理2により」に置き換えればよい。■これらの定理は\(X\)がたかだか可算の場合に限られており、\(X\)が非可算集合の場合には一般に成立しません。証明は割愛しますが、非可算無限集合については以下の定理が成り立ちます:
\(X\)の部分集合\(Y\)が\(\leq\)順序稠密であるとは、任意の要素\(x,y\in X\)について、\(x \leq y\)でありかつ\(x,y \not\in Y\)であるとき、ある\(z \in Y\)が存在して\(x \leq z\)かつ\(z \leq y\)となることをいいます。順序稠密は順序関係のある種の"連続性"を示すものであり、たとえば\(\mathbb{Q}\)は\(\mathbb{R}\)に\(\leq\)順序稠密です。参考文献
[1] 竹村和久, 藤井聡 (2015), "意思決定の処方", 朝倉書店