レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です.
前回の続きを書いていきます.
前層(続)
前層と層の関係を調べるため,\(X\)の開被覆\(\mathfrak{W}\)に対し以下のような条件を仮定します:
$$\mathscr{F} = \bigsqcup \{\mathscr{F}_x ; x \in X\}$$とおきます.ここで,\(\sqcup\)は\(x \not= y\)のとき\(\mathscr{F}_x\)と\(\mathscr{F}_y\)は互いに素であるとして合併をとることを意味します.\(\mathscr{F}\)に$$\{ \{ f_x ; x \in X \} ; f \in F(W) , W \in \mathfrak{W} \}$$を開基とする位相を導入します.\( \pi : \mathscr{F} \to X \)を\( \pi(f_x) = x\)によって定めます.\(\pi\)は全射であり,\(\mathscr{F}\)の位相の入れ方により,\(\pi\)は局所位相同型です.\( (\mathscr{F}, \pi ) \)は\(X\)上の層となっています.この層を前層\( (F, \rho ) \)に同伴する層,あるいは\( F\)の芽のなす層と呼びます.
帰納極限の性質により,次の命題が成り立ちます:
\(\mathfrak{W}\)を条件(W1),(W2)をみたす\(X\)の開被覆とします.\(F\)を\(\mathfrak{W}\)上の前層とし,\(\mathscr{F}\)で\(F\)に同伴する層を表します.\(f \in F(W)\)に対し,$$\sigma_W(f)(x) = f_x, \qquad x \in W$$で\(\sigma_W(f) \in \Gamma(W;\mathscr{F})\)を対応させることにより,$$\sigma_W : F(W) \to \Gamma(W;\mathscr{F})$$なる前層の準同型が定義されます.
(証明) \(f \in F(W)\)が\(\sigma_W(f) = 0\)をみたすとする.条件(W1)により,任意の\(x \in W\)に対して\(x\)の近傍\(W_x \subset W , W_x \in \mathfrak{W}\)が存在して,\(\rho _{W_x} ^W f = 0\)となる.\(W = \cup \{ W_x ; x \in W \}\)であるから,条件(S1)により\(f = 0\).逆も同様に示される.■ (証明) (S2)を仮定する.\(s \in \Gamma(W;\mathscr{F}) \)とする.任意の\(x \in W\)に対して,\(x\)の近傍\(W_x \in \mathfrak{W} , W_x \subset W\)と\(f^x \in F(W_x)\)が存在して,$$\sigma_{W_x}(f^x) = s|_{W_x}$$が成立する.\(\sigma_{W_x}\)は単射であると仮定したので,\(s\)が切断であることにより,\(f^x \in F(W_x)\)は張り合わせの条件をみたす.ゆえに,(S2)より\(f \in F(W)\)が存在して,\(\rho _{W_x} ^W f = f^x\).したがって,$$\sigma_W(f)(x) = f_x = (f^x)_x = s(x)$$である.逆も同様.■(W1),(W2)をみたす被覆\(\mathfrak{W}\)上で定義された前層\(F\)が条件(S1),(S2)をみたすとき,\(F\)は層である,ということもあります.このとき,\(\mathscr{F}\)を前層\(F\)に同伴する層とすれば,\(W \in \mathfrak{W}\)に対し,同型\(\sigma_W : F(W) \to \Gamma(W;\mathscr{F})\)により,\(F(W)\)と\(\Gamma(W;\mathscr{F})\)を同一視します.このようにして,\(F\)と\(\mathscr{F}\)は完全に対応しているので,このような呼び方による混乱は生じません.条件(S1),(S2)を局所化(localization)の条件といいます.(S1)は,「局所的にゼロならば,大域的にもゼロ」あるいは「局所的に一致すれば大域的にも一致」を意味します.(S2)は,局所的に与えられた切断が張り合わせの条件をみたせば,それらを張り合わせて大域的な切断が作れる,ということを意味します.
層係数コホモロジー
(証明) 命題2があるので,\(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) \to \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^{\prime \prime})\)が全射であることを示せばよい.\(s^{\prime \prime} \in \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^{\prime \prime })\)に対して,次の対\( (s, V) \)を考える:列\( (ast) \)は完全であるから,これらの対の全体\( \{ (s, V) \} \)は空ではない.いま,\(V_1 \supset V_2\)かつ\(V_2\)上で\(s_1 = s_2\)となるとき\( (s_1, V_1) \geq (s_2, V_2) \)と順序を定義すれば,\( \{ (s, V) \} \)は帰納的順序集合をなす.Zornの補題により存在が保証される,\(\mathrm{supp} s^{\prime \prime }\)の補集合上のゼロ切断より大きな極大元を\( (s,V) \)とする(\(\mathrm{supp} s^{\prime \prime } = X\)ならば任意の極大元をとればよい).\(V = X\)となることを背理法によって示そう.
\(V \not= X\)とする.すなわち,\(x \not\in V\)が存在すると仮定する.\( (\ast )\)の完全性により,\(x\)の近傍\( V(x) \)と\(s_1 \in \Gamma(V(X); \mathscr{F})\)をみつけて\(h(s_1) = s^{\prime \prime } |_{V(x)}\)としてよい.したがって,\(V \cap V(x)\)上では\(h(s_1 - s) = 0\)が成り立つ.命題2により,\(s^\prime \in \Gamma(V\cap V(X); \mathscr{F}^\prime )\)が存在して,\(i(s^\prime ) = s - s_1\)となる.\(\mathscr{F}^\prime \)は軟弱層と仮定したから,\(s^\prime \)の拡張\(s_1^\prime \in \Gamma(X ; \mathscr{F}^\prime)\)が存在する.いま,$$\tilde S(x) = \begin{cases} s(x) & x \in V \\ s_1(x) + i(s_1^\prime )(x) & x \in V(x) \end{cases}$$とおけば,\(\tilde s \in \Gamma(V \cup V(x) ; \mathscr{F})\)かつ\(h(\tilde s) = s^{\prime \prime}\)となる.\(\mathrm{supp} \tilde s \subset \mathrm{supp} s^{\prime \prime} \cap ( V \cup V(x))\).これは\( (s,V) \)の極大性に反する.■ (証明)
(i)次の可換図式により明らか:
(ii) \(\mathscr{Z}^j = \mathrm{Ker} (\mathscr{F}^j \to \mathscr{F}^{j+1}) = \mathrm{Im} (\mathscr{F}^{j-1} \to \mathscr{F}^j)\)とおけば,\(\mathscr{Z}^1 = \mathscr{F}^0 , \mathscr{Z}^m = \mathscr{F}^m\)で,$$0 \rightarrow \mathscr{Z}^j \rightarrow \mathscr{F}^j \rightarrow \mathscr{Z}^{j+1} \rightarrow 0$$は完全である.まとめれば,次の可換図式となる:
短い完全列の各々に(i)を適用すれば,すべての\(\mathscr{Z}^j\)は軟弱.とくに,\(\mathscr{Z}^m = \mathscr{F}^m\)も軟弱である.■ (証明) 完全列\( (\ast \ast ) \)を,系2(ii)の証明と同様に,短い完全列\( 0 \rightarrow \mathscr{Z}^j \rightarrow \mathscr{F}^j \rightarrow \mathscr{Z}^{j+1} \rightarrow 0 \)に分解する.系2(ii)により,\(\mathscr{Z}^j\)はすべて軟弱である.よって,短い完全列の各々に定理1を適用すればよい.■
さて,\(X\)上の任意の層\(\mathscr{F}\)に対して\(\mathscr{F}\)の軟弱分解が存在することを示してみましょう.
\(\mathscr{C}^0(W;\mathscr{F})\)を,開集合\(W\)から\(\mathscr{F}\)への任意の写像\(s\)で,\(\pi \circ s = \mathrm{id}\)をみたすものの全体とします.ただし,\(\pi : \mathscr{F} \to X\)は層の射影です.\(W \mapsto \mathscr{C}^0(W;\mathscr{F})\)は前層で,局所化の条件(S1),(S2)を満たしています.これに同伴する層を\(\mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)と書くと,$$\mathscr{C}^0(W;\mathscr{F}) = \Gamma(W;\mathscr{C}^0(\mathscr{F}))$$で,\(\mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)は軟弱層です.
\(\mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)の定義により,\(\mathscr{F} \to \mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)なる自然な単射が存在します.この余核を\(\mathscr{Z}^0(\mathscr{F})\)で表します.すなわち,$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{Z}^0(\mathscr{F}) \rightarrow 0$$は完全列です.帰納的に,$$0 \rightarrow \mathscr{Z}^{j-1}(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{Z}^{j-1}(\mathscr{F})) \rightarrow \mathscr{Z}^j(\mathscr{F}) \rightarrow 0$$が完全列になるように層\(\mathscr{Z}^j(\mathscr{F}) , j = 1,2,\ldots \)を定めて$$\mathscr{C}^j(\mathscr{F}) = \mathscr{C}^0(\mathscr{Z}^{j-1}(\mathscr{F})) ,\quad j = 1,2,\ldots$$とおけば\(\mathscr{C}^j(\mathscr{F})\)はすべて軟弱層であって,$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^1(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^2(\mathscr{F}) \rightarrow \cdots \qquad \cdots ( \star \star )$$は完全列です.\( ( \star \star ) \)を\(\mathscr{F}\)の標準的軟弱分解(canonical flabby resolution)といい,\(0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^\ast (\mathscr{F})\)で表します.
全ての列と第一行と第二行は完全であるから,9-lemmaにより第三行の完全性が出る.以下,これを繰り返せばよい.■
次回に続きます.