
2026年9月1日〜14日に、レイ・フロンティアのスマートフォンアプリ SilentLog の利用者が記録した歩行区間で、東京23区の区役所周辺の23エリアを比べました。記録の少ない江戸川区を参考値として除いた22エリアで、1人ずつの平均を等しく扱って集計すると、1分あたりの歩数がいちばん多かったのは世田谷区のエリア(87.5歩)、いちばん少なかったのは足立区のエリア(78.4歩)です。ただし、上位どうしの差ははっきりせず、下位の顔ぶれは集計の仕方で変わります。一方、位置情報から計算した「歩く速さ」で並べると、順位は歩数とほとんど連動しませんでした。

この記事では、1分あたりの歩数の多さを、便宜的に「せかせか度」と呼びます。急ぐ気持ちを直接測ったものではなく、歩行区間全体の歩数を、区間の始まりから終わりまでの時間で割った値です。立ち止まっている時間も含むため、歩くテンポの速さだけでなく、歩みが途切れる頻度の違いも含んでいます。
世田谷区のエリア(松陰神社前駅の近く)は、記録の多い人の歩き方を中心に集計し直しても1位でした。下位はそうではなく、同じ集計では港区・渋谷区・中央区などが下位に入ります(あとで説明します)。足立区のエリア(梅島駅の近く)も、そこでの記録が7日以上ある人どうしで比べると、ほかのエリアとほとんど差がありません。
位置情報から計算した「歩く速さ」で並べると、世田谷区は22エリアの中でいちばん遅くなりました。速く見えたエリアの多くは、歩数は少ないのに、記録の上では1歩で長い距離を進んでいました。同じデータでも、何で測るかによって街の見え方が変わる、というのが今回いちばんの発見です。後半では、坂や信号の多さ、来ている人の顔ぶれといった手がかりから、歩数の差がどこで生まれているのかを、仮説を立てて探りました。
エリアは、各区の区役所から半径1.5km以内で、かつその区の中としました。区役所の周りを歩いたアプリ利用者の記録なので、区全体や区民を代表する数字ではありません。性別が分かる利用者の8〜9割は男性です。前回の記事とは場所・期間・対象範囲の切り出し方が違うので、数値を直接比べることもできません。
9月に公開した「東京駅前の歩行速度は3年で時速0.3km遅くなった」に続く、歩き方の調査です(前回の記事にも、10月に歩数で確かめ直した結果を追記しました。時速0.3kmの低下には、記録のされ方の変化が含まれている可能性があります)。今回は場所を東京23区に広げ、「街によって歩き方は違うのか」を比べてみました。
目次
- 調べ方
- 結果:今回の集計で歩数がいちばん多かったのは世田谷区のエリア
- 位置情報で測った速さでは、まるで違う並びになった
- だれの記録を中心に見るかで、のんびり側の顔ぶれが変わった
- 坂の多さとの関係は、平らな東側4区に支えられていた
- 信号機が多いエリアほど、テンポの速い区間の割合が低かった
- 東側の歩数の少なさは、そのエリアでの記録が1日だけの人の歩き方と重なっていた
- 条件を変えても同じか
- まとめ:よくある疑問への答え
- AIと一緒に分析した話
- この調査の限界
- おわりに
調べ方
- データ: 弊社サービス SilentLog が記録した歩行区間(区間ごとの歩数・所要時間・移動距離)
- 取得・集計: 弊社の人流データ分析基盤(SilentLog Analytics MCP)でデータを取得し、集計しました
- エリア: 各区役所の本庁舎から半径1.5km以内で、かつその区の中。区の内外は、国土地理院の住所の逆引き(逆ジオコーダ)で判定しました
- 期間: 2026年9月1日〜14日
- 1分あたりの歩数: 歩数÷所要時間。歩数はスマートフォンの歩数計の記録で、位置情報は使っていません。3分以上15分未満の歩行区間のうち、1分あたり40〜160歩の区間に限定しました(範囲外には、計測のぶれのほか、立ち止まりの多い区間なども含まれえます)
- 位置情報で測った速さ: 移動距離÷所要時間。移動距離は、記録された緯度経度の点どうしの距離を足し合わせたものです。時速1.5〜12kmの区間に限った補助的な集計で、歩数の集計とは対象の条件が少し違います
- 集計の単位: 1人ごとに平均を出してから、エリアの平均を出しています(記録の多い人に数字が引っ張られないようにするためです)
- 人数: 23エリアで延べ12,180人(エリアごとの人数の合計)、歩行区間は83,174件。江戸川区は25人と少ないため順位の比較から外し、図に参考値として載せています
区役所を基準にしたのは、23区すべてに1か所ずつあり、共通の基準で場所を選べるからです。ただし、区役所の立地は区によって違います。繁華街のそばにある区もあれば、住宅地の中にある区もあります。「区の中心部どうしの比較」ではなく、「各区で同じルールで切り出した1エリアどうしの比較」として読んでください。
結果:今回の集計で歩数がいちばん多かったのは世田谷区のエリア

1分あたりの歩数が多かったのは、世田谷区(87.5)、千代田区(87.0)、板橋区(86.7)、江東区(86.3)、中野区(85.5)。少なかったのは、足立区(78.4)、墨田区(79.9)、荒川区(80.0)、葛飾区(80.1)、品川区(81.2)でした。いちばん多いエリアと少ないエリアの差は1分あたり9.1歩で、10分歩くと約90歩の差になります。
順位には幅があります。利用者を無作為に選び直して計算し直す方法(ブートストラップ)で見ると、世田谷区と千代田区はどちらも1〜5位で、どちらがいちばんかまでは言えません。一方、足立区は18〜22位で、少ない側であることははっきりしています。江戸川区は85.5歩でしたが、25人分の記録しかないため順位には入れていません。
冒頭のタイル図のとおり、位置関係で見ると、歩数が少ないエリアは東側(足立・葛飾・荒川・墨田)と、都心の南側(品川・大田・港)に集まりました。
2つ以上のエリアを歩いた3,402人について、本人の平均からのずれをエリアごとに集計しても、元の並びとよく似た並びになりました(順位相関+0.93)。エリアの差は、歩いている人の顔ぶれの違いだけでは説明しきれない可能性があります。ただし、時間帯や移動の目的の違いまでは分けられていません。
年齢との関係も見ました。エリアごとに、そこを歩いた人の平均年齢を出すと(年齢が分かる人のみ)、42.7歳(目黒区)から47.5歳(板橋区)までと幅が小さく、1分あたりの歩数とははっきりした関係が見えませんでした(順位相関+0.10)。足立区のエリアも、年齢が分かる42人の平均は44.4歳でした。ただし、平均が近くても年齢の構成は違いえます。足立区は年齢の構成をそろえた比較ができていません。年代別の比較は、後の「条件を変えても同じか」の節に載せています。
位置情報で測った速さでは、まるで違う並びになった

正直に書くと、この分析は最初、位置情報で測った「速さ」で進めていました。その並びでは、品川区(時速4.34km)、港区(4.32)、渋谷区(4.29)、荒川区(4.26)、大田区(4.25)、新宿区(4.25)が速く、世田谷区(3.84)がいちばんゆっくりでした。
ところが、歩数と並べると、ほとんど連動していません(順位相関-0.09)。速さで上位の品川区や荒川区は、歩数では下位です。速さでいちばんゆっくりだった世田谷区は、歩数では1位でした。一方で、足立区のように、どちらで測っても少ない側にいるエリアもあります。
なぜずれるのか

手がかりは、移動距離を歩数で割った「1歩あたりの距離」にありました。記録上の1歩あたりの距離は、全区間の中央値で0.77mでした。記録上の1歩あたりの距離が長い区間を比べる目安として、1.2mを超える区間の割合を調べると、エリアによっては1割以上ありました。
その割合が多かったのは、港区(13.2%)、大田区(12.2%)、渋谷区(12.1%)、荒川区(11.7%)、品川区(11.3%)、新宿区(10.4%)。速さの上位6エリアと同じ顔ぶれです。少なかったのは世田谷区と板橋区(どちらも5.1%)でした。速さとこの割合の順位相関は+0.66です。ただし、1.2mを超える区間を除いて計算し直しても、速さの並びはほとんど変わりませんでした(元の並びとの順位相関+0.93)。極端に長い区間だけでなく、1歩あたりの距離が全体に長いエリアほど速く見えていた、ということです。なお、速さと1歩あたりの距離は、どちらも同じ移動距離から計算しています。この相関だけでは、実際の歩幅の違いと記録の影響を区別できません。
同じ人が同じエリアの中を歩いた記録で、駅に近い記録(最寄りの鉄道駅から150m未満)と離れた記録(400m以上)も比べました。対象は、歩数と速さの両方の条件を満たす80,173区間のうち、同じエリアで両方の記録を持つ1,564人分です。駅の近くでは、位置情報で測った速さが時速0.33km速い一方で、1分あたりの歩数は1.8歩少なく、1歩あたりの距離は7cm長くなっていました。駅の近くで記録上の速さが高くなっていることは、歩数の増加では説明できません。
こうした差が、実際の歩き方の違いなのか、記録のされ方の違いなのかは、今回のデータでは分けられません。歩幅そのものは測っておらず、距離は位置情報から、歩数は歩数計から取っているためです。
1つ目の読み方は、実際に歩幅が違うというものです。1歩あたりの距離は、極端に長い区間だけでなく、真ん中の値(中央値)で見ても、港区0.82m、品川区0.79mに対して世田谷区は0.70mでした。
2つ目の読み方は、記録上の距離が伸びているというものです。高いビルの間や地下では位置がずれやすく、記録された点を結ぶと実際より長い線になります。エスカレーターや動く歩道では、歩数が増えないまま位置だけが進みます。駅の近くで、同じ人の歩数が減っているのに1歩あたりの距離だけが伸びていたのは、こちらの読み方に合います(推測)。歩数計が歩数を数えそこねた場合も、1歩あたりの距離は同じように長く出ます。
まとめると、位置情報で速く見えたエリアでは、記録上の1歩あたりの距離が全体に長くなっていました。それが実際の歩幅なのか記録の影響なのかは分かりません。位置情報で測った速さが誤りというより、距離の測り方の影響を受けやすい、別の物差しだと考えています。そこでこの記事では、距離の計算に左右されない、1分間に何歩進んだかを主な物差しにしました。
だれの記録を中心に見るかで、のんびり側の顔ぶれが変わった
位置情報で測るか歩数で測るかのほかにも、結果を大きく変える条件がありました。だれの歩き方を中心に見るか、です。
たとえば、あるエリアに歩行の記録が10件ある人と、1件だけの人がいたとします。この記事では、まず1人ごとに平均を出してから、それをエリアで平均しています。この場合、2人の歩き方は同じだけ結果に入ります。記録が少ない人も1人分として数える集計です。一方、記録を1件ずつまとめて平均すると、10件ある人の歩き方が結果の大半を占めます。記録の多い人の歩き方が中心になる集計です。
集計をこのように変えると、元の並びとの順位相関(1に近いほど同じ並び)は0.63まで下がりました。表の各欄は、左から歩数が多い順です。
| だれを中心に見るか | 歩数が多い5エリア | 歩数が少ない5エリア |
|---|---|---|
| 記録が少ない人も1人分として数える(この記事の集計) | 世田谷・千代田・板橋・江東・中野 | 品川・葛飾・荒川・墨田・足立 |
| 記録を1件ずつまとめて平均する | 世田谷・板橋・中野・北・杉並 | 中央・渋谷・墨田・大田・港 |
多い側は、世田谷・板橋・中野の3エリアがどちらにも入りました。大きく変わるのは少ない側で、下位5エリアのうち4エリアが入れ替わり、港・渋谷・中央などが入ります。
記録を1件ずつまとめて平均すると、記録の多い人の歩き方が強く表れます。港区や中央区が下位に来るのは、信号や人の多さで歩みが途切れやすいことが表に出るため、と読めます(推測)。一方、記録が少ない人も1人分として数える集計では、記録が少ない人の歩き方も、記録の多い人と同じだけ数に入ります。東側では、記録が少ない人がゆっくり歩いていました(後の東側の節で説明します)。どちらが正しいというより、何を知りたいかで使い分ける集計の違いです。
坂の多さとの関係は、平らな東側4区に支えられていた

ここからは、歩数の差がどこから生まれているのかを見ていきます。まず、分析の最初に比べる指標として決めていた「坂の多さ(標高のばらつき)」「昼夜間人口比」「人口密度」の3つです。昼夜間人口比と人口密度は区全体の値で、それを区役所の周りのエリアに当てはめています。ただし、もともと速さと比べるために決めた指標なので、歩数との関係は探索的な結果として読んでください。
3つのうち、相関がいちばん大きかったのは坂の多さでした(順位相関+0.41)。起伏の大きいエリアほど、1分あたりの歩数が多い向きです。ただし、補正をかける前の検定でも、統計的にはっきりした関係とは言えません(p=0.06)。さらに、この関係は、平らで歩数の少ない東側4区(足立・葛飾・荒川・墨田)に支えられていました。東側4区を除いた18エリアでは、相関はほぼ0(-0.03)でした。また、東側4区を含む22エリアで、そのエリアでの記録が2日以上ある人だけで計算し直すと、+0.20(p=0.38)まで弱まります。東側の歩数の少なさは、後の節で見るように、そのエリアでの記録が1日だけの人の歩き方と重なっていました。平らだから歩数が少ない、とは言えなさそうです。
昼夜間人口比(夜の人口に対する昼の人口の割合。+0.19)と人口密度(+0.01)とも、はっきりした関係は見えませんでした。3つの指標のどれからも、エリアの歩数の差をはっきり説明するものは見つからなかったことになります。
なお、昼夜間人口比には、2020年の国勢調査にもとづく値を使いました。「2020年はコロナ禍の年で、数字が古いのでは」と思った方もいるかもしれません。私も同じ点が気になりました。国勢調査の昼間人口は、住んでいる人の数に、通勤・通学で出入りする人の数を足し引きして計算したものです(総務省統計局の説明による)。人が実際に昼間どこにいたかを数えた統計ではなく、2026年のいまの様子を示すものでもありません。
2025年の国勢調査にもとづく値は2027年5月までに公表される予定で、今回は使えませんでした。そこで、東京都が公表している2025年の予測値に置き換えて計算し直したところ、結果はほぼ同じでした(+0.18)。昼夜間人口比による23区の並びも、2020年の値とほとんど変わりません(順位相関0.997)。
信号機が多いエリアほど、テンポの速い区間の割合が低かった
ここから先は、分析のあとで追加した探索的な検証です。先に結論を書くと、信号機が多いエリアほど、1分あたり90歩以上のテンポの速い区間の割合が低い傾向がありました。ただし、この記事の歩数の順位そのものは、信号機の多さでは説明できませんでした。
まず、歩数の差の中身を分けてみました。歩行区間を、1分あたり90歩以上の区間と、それ未満の区間に分けています。90歩は分析のために決めた目安で、立ち止まったかどうかを判定する基準ではありません。
90歩以上の区間に限ると、平均はどのエリアも1分あたり101〜105歩ほどでした。ただし、区間を絞り込むと差はもともと小さく出やすいので、この数字だけで「テンポは同じ」とは言えません。はっきり違ったのは割合のほうで、90歩以上の区間は板橋区で58%、世田谷区で56%あったのに対し、港区では38%でした。

ただし、葛飾区のように、テンポの速い区間の割合は高めなのに、1分あたりの歩数は少ないエリアもあります。割合だけで歩数の多さが決まるわけではありません。
都心では信号や人の多さで歩みが途切れやすいのでは、という見方ができます。
この見方を確かめるため、OpenStreetMap(誰でも編集・利用できる地図データ)から信号機と横断歩道の位置を、国土数値情報から駅の乗降客数(2024年)を取り出し、エリアごとに数えました。エリアの面積は、地図を細かいマス目に区切って近似したおおよその値です。駅の乗降客数は、歩いた場所の混み具合を直接測ったものではありません。

テンポの速い区間の割合は、信号機が多いエリアほど低い傾向がはっきり出ました(信号機の密度との順位相関-0.75)。駅の乗降客数(-0.77)や、横断歩道の密度(-0.69)とも同じ向きです。信号機がいちばん多いのは港区と中央区(1km²あたり約57か所)、少ないのは杉並区と中野区(12〜13か所)でした。
エリアの違いには、信号以外の要素も重なっています。そこで、同じエリアの中で、同じ人の記録どうしを比べました。記録された地点の周り200m以内にある信号機の数で、エリアごとに記録を3つに分け、多いほうの3分の1と少ないほうの3分の1を比べています(3,012人)。信号機が多い場所では、1分あたりの歩数が1.1歩少なく、テンポの速い区間の割合も3.5ポイント低くなっていました。小さな差ですが、信号の多い場所では歩みが途切れやすい、という見方と合います。
ただし、立ち止まった時間は直接測っておらず、信号の多い場所には人の多さなど別の条件も重なるため、信号が原因とまでは言えません。OpenStreetMapの登録の細かさが地域によって違う可能性もあります(推測)。また、1分あたりの歩数そのものの並び(世田谷区が多く、足立区や葛飾区が少ない)とは、信号機の密度ははっきりした関係がありませんでした(-0.13)。葛飾区は信号機が少ない側なのに歩数が少なく、東側の歩数の少なさには別の理由がありそうです(次の節で確かめました)。
東側の歩数の少なさは、そのエリアでの記録が1日だけの人の歩き方と重なっていた
信号機では説明できなかった、東側4区(足立・葛飾・墨田・荒川)の歩数の少なさについて、仮説を立てて1つずつ見ていきました。同じデータを見ながら立てた仮説で、独立した検証ではありません。先に結論を書くと、信号機や自転車、店舗、道の種類などの指標では、東側の少なさは説明できませんでした。目立ったのは、そのエリアでの記録が1日だけの人の歩数が、東側4区で特に少なかったことです。墨田区と荒川区では、その人たちのゆっくりした記録がスカイツリー周辺と日暮里駅周辺に集まっていました。記録が2日以上ある人だけで比べると、葛飾区は12位まで上がりましたが、足立区は21位のままでした。
まず、歩いている人の違いなのか、場所の違いなのかを見ました。東側4区と、西・北側の6エリア(世田谷・杉並・中野・練馬・板橋・北)の両方を歩いた86人で比べると、同じ人でも東側では1分あたりの歩数が7.4歩少なくなっていました。人の顔ぶれだけでは説明しきれない差です。場所の特徴や、そこを歩く目的の違いが手がかりになりそうです。次の表の「その他」は、東側4区を除いた18エリアです。
| 仮説 | 確かめ方 | 結果 |
|---|---|---|
| 自転車が多く、道を分け合っている | 移動の記録に占める自転車の割合 | 東側は多め(4.8%、その他3.3%)だが、歩数とは連動しない(順位相関-0.15) |
| 自転車の移動が「歩行」に紛れ込んでいる | 1分60歩未満で時速6km超の区間の割合 | ほぼ差がない(東側0.9%、その他0.8%) |
| 信号待ち | 信号機の密度 | 東側は多くない(1km²あたり24.9か所、その他29.4か所) |
| 踏切待ち | 踏切の密度、踏切の近くの記録 | 関係が見えない(+0.04)。OpenStreetMap上では、足立区のエリアに踏切の登録がない |
| 商店街や買い物での歩き | 店舗の密度、大型商業施設の近くの記録 | 同じ人の記録では、店舗の多い場所のほうが1分あたり1.2歩少ない。ただ、東側は店舗が少ない側なので、東側の少なさの説明にはならない。大型商業施設の近くと遠くでは、明確な差は確認できなかった |
| 生活道路や路地が多い | 道の種類ごとの長さの割合(OpenStreetMap) | 東側は生活道路・路地などがやや多い(55%、その他49%)が、歩数とは連動しない(-0.07)。歩道の幅や有無は、地図への登録が少なく判定できなかった |
| 川や公園での散歩 | 公園の密度、公園の近くの記録 | 東側は公園が多めだが、公園の近くと遠くで明確な差は確認できなかった(川は位置をおおよその点で測ったため判定を見送り) |
| 歩いている人の年齢や時間帯 | 60歳以上の割合、平日の通勤時間帯の割合 | 歩数とは連動しない |
| 地元の人の、生活のための歩き | そのエリアで歩行記録のある日数 | 予想と逆だった(下で説明) |
そのエリアでの記録が1日だけの人は、歩数が少なかった
手がかりになったのは、最後の仮説でした。そのエリアで歩いた記録がある日数(2週間のうち何日か)で人を分けると、そのエリアでの記録が1日だけの人は、7日以上ある人より、22エリア中21エリアでゆっくり歩いていました(例外は千代田区)。差は平均で1分あたり7.0歩です。記録が1日だけの人は、土日や昼間の記録が多いなど、歩く目的も違う可能性があります。また、記録のある日数は実際に来た日数とは限りません(何度も来ている人が、アプリの記録の残り方によって1日分しか残っていないこともありえます)。住んでいる場所も分からないため、どんな人たちなのかは推測するしかありません。
なお、ここから先の「記録が1日だけの人」「7日以上の人」は、いずれもそのエリアでの記録の日数で分けたもので、アプリ全体での記録の日数ではありません。

東側4区で目立って少なかったのは、この「記録が1日だけの人」の歩数でした(東側76.0歩、その他の18エリア83.4歩)。7日以上の人どうしでは、ほとんど差がありません(87.0歩と87.9歩)。エリアごとの人数を合計すると、記録が1日だけの人の割合は東側4区で約57%、その他の18エリアで約53%で、大きくは違いません。
記録が1日だけの人がゆっくり歩いていた場所をたどると、2か所に集まっていました。墨田区の押上一丁目(東京スカイツリー、東京ソラマチ、すみだ水族館がある一角)と、荒川区の日暮里駅の周りです。この2か所で記録が1日だけの人の歩数は、1分あたり72歩前後でした。観光や、空港からの乗り換えでゆっくり歩いている、という読み方ができます(推測)。
| 計算の仕方 | 墨田区 | 荒川区 | 葛飾区 | 足立区 |
|---|---|---|---|---|
| 全員(もとの集計) | 21位 | 20位 | 19位 | 22位 |
| スカイツリー周辺と日暮里駅周辺(各300m)を除く | 5位 | 8位 | 21位 | 22位 |
| そのエリアでの記録が2日以上ある人だけ(全エリア同じ条件) | 15位 | 18位 | 12位 | 21位 |
スカイツリー周辺と日暮里駅周辺を除くと、墨田区は5位、荒川区は8位まで上がりました。ただ、この2か所は結果を見てから選んで外したものです。そこで全エリアに同じ条件をかけ、記録が2日以上ある人だけで比べ直しました。東側4区とその他の18エリアの差は、1分あたり4.9歩から1.6歩に縮まりました。葛飾区も12位まで上がります(葛飾区は70人と少なく、もともと順位の幅は13〜22位でした)。東側の歩数の少なさのかなりの部分は、記録が1日だけの人たちの歩き方と重なっていた、と言えます。その人たちが観光客なのか、乗り換え客なのか、近くに住む人なのかまでは分かりません。
足立区も、だれの記録を中心に見るかで順位が変わる
足立区は、記録が2日以上ある人だけで比べても21位でした。ただ、記録の多い人の歩き方が中心になる集計(記録を1件ずつまとめて平均する)にすると、17位まで上がります。記録が7日以上ある人どうしでは、足立区のエリアは1分あたり86.0歩、ほかのエリアは87.8歩とほとんど差がなく、足立区では記録が1日だけや2〜6日の人が73〜78歩とゆっくりでした。記録が少ない人も1人分として数えるこの記事の集計では、この人たちの分も、記録の多い人と同じだけ数に入るため、影響が大きく出ます。足立区のエリアはもともと72人分の記録しかなく、記録の少ない人がなぜゆっくりなのかまでは突き止められませんでした。
例外だった千代田区
例外だった千代田区では、記録が1日だけの人のほうが、7日以上の人より1分あたりの歩数が多くなっていました。記録が1日だけの人どうしで比べると、千代田区の87.5歩は22エリアで最も多い値です。その人たちが集まっていたのは、大手町、神保町、水道橋といった乗り換え駅の周りです。
観光施設の近くではどうか
墨田区・荒川区と千代田区の違いは、立ち止まって見る場所か、通り抜ける場所かの違いかもしれません。そこで全エリアを対象に、博物館や名所などの観光施設(OpenStreetMapに登録されたもの)から150m未満の記録と、500m以上離れた記録を、同じエリアの中で比べました。比べられるだけの人数がそろったのは、記録が1日だけの人で12エリア、7日以上の人で14エリアです。
観光施設の近くでは、記録が1日だけの人で1分あたり2.7歩、7日以上の人でも3.9歩、歩数が少なくなっていました。比べた2つのグループのどちらでも、観光施設に近い記録のほうが歩数は少ない、という結果です。ただし、見物でゆっくりになったのか、そこを歩く人や道筋の違いなのかは分かりません。
そのエリアでの記録が1日だけの人について、墨田区・荒川区と千代田区を並べると、次のとおりです。
| 墨田区 | 荒川区 | 千代田区 | |
|---|---|---|---|
| 記録が集まっていた場所 | 押上一丁目(東京スカイツリー周辺) | 日暮里駅の周り | 大手町・神保町・水道橋の乗り換え駅の周り |
| その場所での1分あたりの歩数 | 72歩前後 | 72歩前後 | 85歩前後 |
| エリア全体で、観光施設から150m未満の記録の割合 | 73% | 52% | 36% |
ゆっくりだった墨田区と荒川区では、観光施設の近くの記録が多く、千代田区では少なめでした。ただし、台東区では、記録が1日だけの人の記録の68%が観光施設の近くにありましたが、全員での歩数の順位は22エリア中14位でした。観光施設だけで説明できるわけではありません。
条件を変えても同じか
集計の条件を変えて、エリアの歩数の並び方がどれだけ保たれるかも確かめました。数字は元の並びとの順位相関で、1に近いほど同じ並びです。
| 変えた条件 | 元の並びとの一致 |
|---|---|
| 歩行区間を3分以上30分未満に広げる | 0.99 |
| 男性だけにする | 0.97 |
| 年齢の構成をそろえる(19エリア) | 0.97 |
| 平日だけにする | 0.93 |
| 土日だけにする | 0.88 |
| 記録を1件ずつまとめて平均する(記録の多い人の歩き方が中心になる) | 0.63 |
先に見た、だれの記録を中心に見るかを変える場合を除き、確かめた条件では並びはおおむね保たれました。年齢の構成をそろえた比較は、年代ごとの人数が足りない3区(板橋・足立・葛飾)を除いた19エリアで行っています。年齢が分からない利用者や、補正できなかったエリアへの影響は確認できていません。
年代による違いも小さかった
結果の節では、エリアの平均年齢と1分あたりの歩数に、はっきりした関係が見えないことを書きました。位置情報で測った速さとも、はっきりした関係はありませんでした(順位相関-0.05)。ここでは1人ずつ見ていきます。年齢が分かる2,910人について、1人ごとにすべてのエリアの記録を平均し、年代ごとに比べました。
| 年代 | 人数 | 1分あたりの歩数 | 位置情報で測った速さ |
|---|---|---|---|
| 20代以下 | 217人 | 83.0歩 | 時速4.21km |
| 30代 | 1,031人 | 84.6歩 | 時速4.15km |
| 40代 | 494人 | 84.7歩 | 時速4.13km |
| 50代 | 696人 | 84.7歩 | 時速4.16km |
| 60代 | 402人 | 84.5歩 | 時速4.04km |
| 70代以上 | 70人 | 83.6歩 | 時速4.06km |
1分あたりの歩数は、どの年代も83〜85歩で、ほとんど差がありませんでした(年齢との順位相関+0.03)。位置情報で測った速さは、60歳以上で30〜50代より時速0.1kmほど遅くなっていました。ただし、年齢はアプリに登録された値で、年齢が分からない利用者は含まれていません。
まとめ:よくある疑問への答え
Q. 東京23区で、せかせか歩いているのはどの区? 2026年9月1日〜14日の SilentLog の歩行記録で比べると、1分あたりの歩数がいちばん多かったのは世田谷区のエリア(87.5歩)でした。ただし、千代田区(87.0歩)など上位のエリアどうしの差は小さく、どこが1位かまでは言えません。
Q. のんびり歩いているのはどの区? いちばん少なかったのは足立区のエリア(78.4歩)です。ただし、記録の多い人の歩き方を中心に集計すると、下位には港区・渋谷区・中央区などが入り、顔ぶれが変わります。
Q. 位置情報で測った速さと歩数は、なぜ違う結果になるの? 位置情報で測った速さで並べると、歩数とはほとんど連動しませんでした(順位相関-0.09)。速く見えたエリアでは、記録上の1歩あたりの距離が全体に長くなっていました。実際の歩幅の違いなのか、高いビルの間や地下での位置のずれなど記録の影響なのかは、区別できません。
Q. 信号が多い街ほど、ゆっくり歩く? 信号機が多いエリアほど、1分あたり90歩以上の区間の割合が低い傾向がありました(順位相関-0.75)。ただし、立ち止まった時間は直接測っておらず、信号が原因とまでは言えません。エリアの歩数の順位そのものとも、はっきりした関係はありませんでした。
Q. 東側の区の歩数が少ないのは、平らだから? 平らだから、とは言えなさそうです。東側4区の少なさは、そのエリアでの記録が1日だけの人の歩き方と重なっていて、記録が2日以上ある人だけで比べると、ほかの18エリアとの差は1分あたり4.9歩から1.6歩に縮まりました。
Q. 年齢で歩き方は変わる? 今回の SilentLog 利用者のうち、アプリに登録された年齢が分かる2,910人では、年代ごとの1分あたりの歩数は83〜85歩で、ほとんど差がありませんでした。位置情報で測った速さは、60歳以上で30〜50代より時速0.1kmほど遅くなっていました。年齢が分からない利用者は含みません。
AIと一緒に分析した話
この記事の集計と図は、AIと一緒に作りました。私が担ったのは、問いを決めることと、公開してよい表現を選ぶことです。AIの作業は別のAIに点検させ、区の範囲の取り方や年齢のそろえ方の誤りを直しました。記事の数値も、別のAIが集計ファイルと突き合わせて確認しています。途中で私が「もう一段掘り下げられないか」と頼んだところ、AIが歩数でも確かめ直し、記事の結論そのものが変わりました。社内のデータを分析するときも、この分担はそのまま使えると感じました。何を確かめたいかを人が決め、手を動かす作業と点検をAIに任せる形です。AI活用のご相談では、この分担をお客様の業務に合わせて組み立てるところからお手伝いしています。
この調査の限界
- 区全体や区民の代表ではありません。区役所から半径1.5km以内を歩いた、アプリ利用者の記録です
- 利用者に偏りがあります。性別が分かる利用者の8〜9割が男性で、性別や年齢が分からない利用者も4〜5割います。年齢の構成をそろえた確認は、年代ごとの人数がそろう19エリアに限られます
- 歩数にも限界があります。歩数計の数え方は、スマートフォンの機種や持ち方で変わりえます。機種の構成がエリアごとに違うかは確認していません。立ち止まりの時間を含む区間では歩数が少なめに出る一方、3分未満に分かれた区間は集計に入りません。区間の下限(3分)や歩数の範囲(1分あたり40〜160歩)を変えた確認はしていません
- 歩数による比較は、仮説を探す段階の結果です。どの物差しで比べるかをデータを見たあとで決めたため、たまたまの差を拾っている可能性があります。別の時期や場所で確かめるまでは、ひとつの見方として読んでください
- 2週間・9月だけの記録です。季節や天気による違いは見ていません。来年の同じ時期に同じ結果になるかも、まだ確かめていません
- 公開しているのは地域別の集計結果です。個々の利用者の記録は載せていません。SilentLog の利用規約(第14条第2項)に基づき、個人を特定できない統計的な情報として公開しています
おわりに
23区の歩き方の違いそのものは、すぐに仕事に役立つ話ではないかもしれません。それでも、同じデータを位置情報で測るか歩数で測るか、だれの記録を中心に集計するかで、街の見え方がまるで変わったのは、個人的に「なるほど」と思えた結果でした。データを仕事に使うときにも、見落としやすい点だと感じています。
この種の比較は、現地調査や追加の分析で確かめたい仮説をつくる材料になります。一方で、この記事の数字だけで、売上や出店の向き不向き、歩きやすさの良し悪しを判断することはできません。季節を変えて同じ比較をやり直すことも、今後試してみたいと考えています。
比べてみたいエリアと知りたいことがあれば、こちらからご相談ください。データの量を確かめたうえで、比較できるかどうかをお伝えします。記録の少ない地域や、利用者の偏りが気になる場合は、お客様がお持ちのデータや、通信キャリアなどが提供する人流データと組み合わせて分析し、数字の確かさを高めることもできます。データを業務に取り入れる段階では、AI活用診断や小規模な実証もお手伝いしています。
あなたが比べてみたいエリアでは、どんな街の違いを確かめたいですか。
前回の調査はこちらです:東京駅前の歩行速度は3年で時速0.3km遅くなった ― 人流データでみる2023年→2026年
出典
歩行記録は2026年9月のものです。公的統計は、項目ごとに調査年が異なります。
- 歩数・歩く速さ:弊社サービス SilentLog の歩行記録(2026年9月1日〜14日)
- 区役所の位置・区の内外の判定:国土地理院「地理院地図の住所検索・逆ジオコーダ」
- 標高:国土地理院「標高API」
- 昼夜間人口比:東京都「東京都昼間人口の予測」(令和7年3月)第2表。令和2年(2020年)国勢調査に基づく値(不詳補完値)と、同表の2025年の予測値
- 昼間人口の計算方法:総務省統計局「統計FAQ 市区町村別の昼間人口」
- 人口密度:東京都「令和7年国勢調査 人口及び世帯数(速報)」(2025年10月1日)
- 信号機・横断歩道の位置:© OpenStreetMap contributors(ODbLライセンス・2026年10月11日に取得)
- 駅の乗降客数:国土交通省 国土数値情報「駅別乗降客数データ」(2024年度版〔ファイル名 S12-25〕の2024年の乗降客数)
- 駅の位置:国土交通省 国土数値情報「鉄道データ」(令和7年度)。各エリアに添えた駅名と、記録の地点から最寄り駅までの距離の計算に使用(都電の停留場は除く)










































対象ユーザー全体では50代が多かったですが、寄り道ユーザーの結果から40代、60代の寄り道率が若干高いです。年代別でも女性の寄り道率が比較的高い結果となりました。













