レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です.
層の定義と、その基本的な性質について述べます.
層
\(\pi\)を射影(projection)といい,\(\mathscr{F}_x = \pi^{-1}(x)\)を\(x\)上の茎(stalk)といいます.定義1の(2)により,射影は開写像であることが分かります.\mathscr{F}を\(X\)上の層,\(Y \subset X\)を部分空間としたとき,\( (\pi^{-1}(Y), \pi |_{\pi^{-1}(Y)} ) \)は\(Y\)上の層を与えます.ここで,\(\pi^{-1}(Y)\)には\(\mathscr{F}\)の開集合としたの位相を与えます.これを\(\mathscr{F}|_Y\)と書き,層\(\mathscr{F}\)の\(Y\)への制限といいます.
定義1において,「Abel群」を「環」でおきかえ,(4)で加法および乗法\( (p_1, p_2) \mapsto p_1 p_2\)の連続性を仮定すれば,環の層が定義できます.いま\( (\mathscr{G}, \sigma) \)を環の層として,Abel群の層\( (\mathscr{F}, \pi) \)が\(\mathscr{G} \)-加群の層であるとは,をみたすことをいいます.
以下,混乱のない限り層といえばAbel群の層のことをさします.
\(\mathscr{F}^\prime \subset \mathscr{F}\)かつ恒等写像\(\mathscr{F}^\prime \hookrightarrow \mathscr{F}\)が層の準同型であるとき,\(\mathscr{F}^\prime\)は\(\mathscr{F}\)の部分層(subsheaf)であるといいます.\(\mathscr{F}^\prime \subset \mathscr{F}\)が\( \mathscr{F}\)の部分層であるには,の3条件を満たすことが必要十分です.\(\mathscr{F}^\prime\)が\(\mathscr{F}\)の部分層であるとき,$$\mathscr{F}^{\prime \prime } _x = \mathscr{F}_x / \mathscr{F}^\prime_x$$とおき,\(h_x : \mathscr{F}_x \to \mathscr{F}^{\prime \prime}_x\)を標準的全射とし,さらに$$\mathscr{F}^{\prime \prime} = \bigsqcup_{x \in X}\mathscr{F}^{\prime \prime}_x \ ,\ (直和) $$とおき,\(h : \mathscr{F} \to \mathscr{F}^{\prime \prime}\)を\(h_x\)の拡張として定義します.\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)に\(h\)による商位相をいれると,\(\mathscr{F}^{\prime \prime }\)はまた\(X\)上の層となっています.\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)を\(\mathscr{F}^\prime / \mathscr{F}\)と書き,商層(quotient sheaf)といいます.環の層,環の層を係数とする加群の層に対しても,準同型が同様に定義できます.環の層の部分層,商層なども同様に定義されます.\(x \in X\)を固定し,\(p \in \pi^{-1} (x)\)を任意にとります.\(\pi\)は局所位相同型だから,\(p\)の近傍\(U\)があり,\(\pi|_U:U \to \pi(U) = W\)は位相同型となります.したがって,\(W\)は\(x\)の開近傍であり,\(s = (\pi|_U)^{-1} \in \Gamma(W; \mathscr{F})\)は\(s(x) = p\)を満たします.このことから次の3つの補題が証明されます:\(s \in \Gamma(W;\mathscr{F}\)であれば,\(s - s \)も\(W\)上の\(\mathscr{F}\)の切断であり,\(s\)によらず定まります.これを\(\mathscr{F}\)のゼロ切断(zero section)といい,\(0 : W \to \mathscr{F}\)で表します.\(0(x)\)とは,Abel群\(\mathscr{F}_x = \pi^{-1}(x)\)のゼロ元に他なりません.
\(i : \mathscr{F}^\prime \to \mathscr{F}\)が層の準同型であるとします.このとき,\(\mathrm{Im} i = i(\mathscr{F}^\prime) \)は\(\mathscr{F}\)の部分層です.また,\(\mathrm{Ker} i \subset \mathscr{F}^\prime\)は,\(i\)で\(\mathscr{F}\)のゼロ切断の像\(\{ 0(x); x \in X \} \)にうつる\(\mathscr{F}^\prime \)の元から成ります.切断の像は開集合なので,\(\mathrm{Ker} i\)は開集合の連続写像による逆像だから開集合であり,したがって\(\mathscr{F}^\prime\)の部分層となっています.
層の準同型からなる完全列を考えることもできます.$$\mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F} \xrightarrow{h} \mathscr{F}^{\prime \prime}$$が(第二項において)完全であるとは,$$\mathrm{Im} i = \mathrm{Ker} h$$であることと定義します.$$ 0 \rightarrow \mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F} \xrightarrow{h} \mathscr{F}^{\prime \prime} \rightarrow 0$$が完全列であるための必要十分条件は,\(\mathscr{F}^\prime\)が\(\mathscr{F}\)の部分層(と同型)であり,\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)が商層\(\mathscr{F} / \mathscr{F}^\prime \)(と同型)であることです.
切断に話題を戻します.\(Y^\prime \subset Y\)であれば,\(Y\)上の\(\mathscr{F}\)の切断\(s \in \Gamma(Y;\mathscr{F})\)を\(Y^\prime\)に制限することにより,\(Y^\prime\)上の\(\mathscr{F}\)の切断$$S|_{Y^\prime} \in \Gamma(Y^\prime ; \mathscr{F})$$が定まります.これを,\(s\)の\(Y^\prime\)への制限(restriction)といいます.
次の補題が成り立ちます:
層は一般にはHausdorffの分離公理を満たすとは限りませんが,次の命題が成立します:
次回に続きます.