Rei Frontier Tech Blog

人流データの分析から位置情報技術・AI活用まで、調べたこと・作ったこと・考えたことを書いています。位置情報分析サービス「SilentLog Analytics」を提供する、レイ・フロンティア株式会社のブログです。

都道府県87%、市区町村30%。自治体の生成AI導入で、差はどこに生まれているのか

都道府県87.2%、指定都市90.0%、その他の市区町村29.9%。総務省が公表している生成AIの導入率です。同じ国の、同じ制度の下にある組織で、これだけ開いています。

レイ・フロンティア代表の田村です。このたび総務省の制度で、地方公共団体のDX関係アドバイザーとして登録されました。告知は自社サイトのお知らせに書いたので、こちらでは、その手前にある話を書きます。上の3割という数字を、私は現場でどう見ているかという話です。

3割で止まっている理由は、ツールが理由ではない

数字の出どころは、総務省「自治体における生成AI導入状況」(令和7年6月30日版・調査基準日は令和6年12月31日)です。

区分 導入済み 実証中・導入予定を含む
都道府県 87.2% 100%
指定都市 90.0% 100%
その他の市区町村 29.9% 51%

都道府県と指定都市はほぼ行き渡っています。その他の市区町村は3割。実証中と導入予定を足しても、ようやく半分です。

同じ資料に、導入にあたっての課題の上位3つが挙がっています。

  1. 取り組むための人材がいない、または不足している
  2. AI生成物の正確性への懸念がある
  3. 導入効果が不明

別々の課題に見えますが、現場ではひと続きです。使う業務が決まっていなければ、出力をどう確認すべきかも決まらず、何をもって効果とするかも決まりません。そして、それを決める役回りの人がいない。3つ目の「効果が不明」は、たいてい1つ目の「人がいない」の結果として起きています。

つまり断層を作っているのは技術の差ではなく、技術を業務につなぐ役を、誰かが担っているかどうかの差です。都道府県や指定都市には、それを専任でやれる人がいます。人口数万人の自治体には、たいてい、いません。

現場で実際に起きること

私は2025年12月から、岩手県八幡平市のDX戦略統括アーキテクトを務めています。月に一度は市役所に通い、庁内の相談を受けながら、業務の整理や情報システムの棚卸し、職員向けの勉強会に関わってきました。この仕事に限らず、民間企業の支援も含めて、繰り返し出会うのがこういう場面です。

「どのツールがいいですか」から始まる。

これは自治体に限りません。民間企業でもまったく同じです。ただ、この問いに製品名で答えると、ほぼ確実に失敗します。答える前に「どの業務の、どの工程を、誰が」を決めないといけない。決まっていれば選択肢は自然に絞られますし、決まっていなければ、どれを選んでも同じように使われません。

導入が決まったあとで「で、効果はどう測るんですか」と聞かれる。

これが一番もったいない瞬間です。導入前の状態を誰も記録していないので、比べる相手がいない。結果として「なんとなく便利になった気がする」以上のことが言えず、次年度の予算要求で説明に詰まります。

規程や決裁のかたちが決まっていないと、現場は使えない。

民間なら「まず試してみよう」で動けますが、自治体では、その一歩に根拠が要ります。誰の承認で、どの範囲まで、どんな記録を残して使うのか。ここが空白のままツールだけが配られると、まじめな職員ほど使いません。ルールがないから使わない、という判断は、行政組織ではむしろ正しい振る舞いです。

ツールを選ぶ前に決めていること

だから私は、道具の話に入る前に次の3つを決めます。

1つめ、使う業務をひとつに絞る。

全庁展開を最初の目標にしません。「この課の、この作業」まで絞ります。そこまで絞ると、うまくいったかどうかを確かめる人が誰なのか、はっきりします。全庁に薄く配ると、誰も自分の仕事だと思わないまま試行期間が終わります。

2つめ、導入前に現状を測る。

その作業に今どれだけ時間がかかっているかを、始める前に記録します。厳密でなくてかまいません。「だいたい1件30分」で十分です。これがないと、あとから効果を語れません。逆にこれさえあれば、小さな改善でも数字で説明できます。

このとき、作業時間だけを測ると足をすくわれます。確認にかかる時間と、手戻りの回数もあわせて記録してください。 生成AIで下書きが速くなっても、その分だけ確認が増えるなら、業務全体としては軽くなっていません。

もうひとつ注意点があります。ツールに内蔵されている利用統計は、外向けの説明材料としては使えますが、業務が楽になった証明にはなりません。使われた回数と、減った仕事は別物です。この2つは分けて設計してください。

3つめ、使ってよい範囲を先に書いておく。

 完璧なガイドラインは要りません。「この種類の情報は入れない」「出力はそのまま使わず必ず人が確認する」といった数行から始めて、運用しながら足していけばいい。大事なのは、職員が迷ったときに戻れる場所を、最初に作っておくことです。

なぜ、この仕事を続けているのか

「やりたい人がいるのに、進め方が分からないだけで止まっている」という場面を、何度も見てきたからです。担当の方にやる気がないわけではありません。むしろ逆で、まじめな人ほど「根拠がないまま職員に配るわけにはいかない」と考えて、そこで止まる。足りないのは新しいツールではなく、その手前を一緒に整理する相手です。

人口数万人の自治体に、AI専任の職員を置く余裕はありません。ないものねだりをしても仕方がないので、外から入る人間がその役を引き受ける。総務省のアドバイザー制度は、まさにそのために用意された仕組みです。登録したのは、この制度を実際に使ってもらえる状態にしておきたかったからです。

なお、ここで考えたことの多くは、民間企業の支援にもそのまま持ち込めています。予算に制約があり、専任者がおらず、失敗が許されにくく、使う人のITの習熟度に幅がある。この条件で「実際に使われる状態」まで持っていける進め方なら、どの現場でも通用します。

 


本制度によるアドバイザーの派遣は、市区町村からの申請にもとづいて行われます。ご関心のある自治体の方は、都道府県または総務省の担当窓口へお問い合わせください。

制度によらないご相談も歓迎します。民間企業のAI導入についても同様です。

お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

 

参考