Rei Frontier Tech Blog

人工知能を活用した位置情報分析プラットフォーム「SilentLog Analytics」を運営する、レイ・フロンティア株式会社のエンジニアメンバーで運営する技術ブログです。

GPSデータをクラスタリングしてみた

レイ・フロンティア株式会社 機械学習エンジニアの野島です。 

レイ・フロンティア株式会社では、SilentLogを介して得られる行動情報を蓄積し、分析しています。

今回は、その行動情報から得られる滞在地点のGPSデータ(緯度、経度、時間)を用い、

  • どの場所が滞在ユーザー数が多いのか
  • ある場所に滞在したユーザーは、その他の場所でどの場所に滞在することが多いのか

を分析しましたので、その結果をまとめます。

 

 

分析の流れ

以下の流れで分析を行いました。

  • 入力:分析対象期間
  • 出力:滞在したユーザーが多い地点
  1. ユーザーの抽出
  2. 対象ユーザーの滞在データの抽出
  3. 滞在地点をクラスタリング
  4. クラスタごとの滞在ユーザーを抽出
  5. クラスタを滞在ユーザー数でソートして上位を出力

ユーザーの抽出

特に指定しなければSilentLog全ユーザーということになりますが、あるランドマーク(例えば、東京駅)に指定期間内に滞在したユーザーを抽出するといったこともできます。

ランドマークに滞在したユーザーを抽出することにより、そのランドマークに滞在したユーザーは、他のどのランドマークに滞在するといった傾向を分析することもできます。

 

対象ユーザーの滞在データの抽出

当社DBにアクセスして、抽出したユーザーの滞在データを取得します。

取得できるデータとしては以下になります。

  • ユーザーID
  • 緯度
  • 経度
  • 滞在した日時

 

滞在地点をクラスタリング

クラスタリングアルゴリズムとしては、DBSCANを採用しました。

DBSCANとは一般的なクラスタリングアルゴリズムの一つで、以下の特徴があります。

  • クラスタ数を指定しなくて良い
  • ノイズを除去することができる
  • クラスタ形状が任意の形状となる

 DBSCANにおける詳細情報は下記をご参照ください。

ja.wikipedia.org

 

クラスタごとの滞在ユーザーを抽出、クラスタを滞在ユーザー数でソートして上位を出力

 クラスタと滞在地点情報(ユーザーID、緯度・経度)が紐付いているので、クラスタごとのユーザー数をカウントし、ユーザー数で降順でソートし、上位を出力する。

 

抽出結果

2019年6月21日~6月24日までの全SilentLogユーザーを対象にした日別滞在場所トップ30を抽出

まず最初に、平日と土日を含む期間で抽出してみました。

抽出結果は下記の表になります。

順位 2019年6月21日(金) 2019年6月22日(土) 2019年6月23日(日) 2019年6月24日(月)
1 東京駅 新宿駅 新宿駅 東京駅
2 新宿駅 渋谷駅 池袋駅 新宿駅
3 渋谷駅 池袋駅 大阪駅 渋谷駅
4 大阪駅 大阪駅 渋谷センター街 新橋駅
5 池袋駅 銀座四丁目交差点 東京駅 品川イーストワンタワー
6 品川イーストワンタワー 東京駅 銀座三丁目 大阪駅
7 秋葉原駅 横浜駅 横浜駅 池袋駅
8 横浜駅 秋葉原駅 秋葉原駅 秋葉原駅
9 名古屋駅 上野アメ横 名古屋駅 横浜駅
10 恵比寿駅 名古屋駅 上野アメ横 名古屋駅
11 川崎駅 川崎駅 川崎駅 恵比寿駅
12 上野駅 なんば 品川駅 川崎駅
13 東京ミッドタウン 品川駅 吉祥寺サンロード商店街 浜松町駅
14 飯田橋駅 新橋駅 新大阪駅 上野駅
15 新大阪駅 吉祥寺サンロード商店街 武蔵小杉駅 北千住駅
16 赤坂見附駅 神戸三宮駅 二子玉川駅 田町駅
17 浜松町駅 恵比寿駅 なんば 大崎駅
18 田町駅 錦糸町駅 錦糸町駅 六本木一丁目駅
19 博多駅 大宮駅 恵比寿駅 銀座四丁目交差点
20 五反田駅 京都駅 大宮駅 赤坂見附駅
21 大崎駅 博多駅 ラフォーレ原宿ショッピングセンター 豊洲駅
22 大宮駅 中野サンプラザ 北千住駅 博多駅
23 神田駅 高田馬場駅 京都駅 赤坂駅
24 六本木ヒルズ 立川駅 中野サンプラザ 新大阪駅
25 京都駅 新大阪駅 立川駅 大阪アクア堂島浜NBFタワー
26 目黒駅 あべのハルカス 神戸三宮駅 高田馬場駅
27 錦糸町駅 北千住駅 高田馬場駅 錦糸町駅
28 赤羽駅 仙台駅 羽田空港第二ビル 目黒駅
29 北千住駅 町田駅 自由が丘駅 飯田橋駅
30 中野サンプラザ 自由が丘駅 赤羽駅 吉祥寺駅

 

上位の地点は、下記JR東日本各駅の乗車人員の上位駅とほぼ一致しました。

www.jreast.co.jp

 

土日になると、

上野アメ横、吉祥寺、なんば、自由が丘

などのショッピングを目的としたと推測される地点がランクインしています。

 

2019年10連休(4/27~5/6)に羽田空港に滞在したSilentLogユーザーの、その他の滞在場所ユーザー数トップ30を抽出

次に、2019年の10連休に着目して抽出してみます。

最初は、10連休ということで遠距離を移動する人が多いと思いますので、羽田空港を利用した人(羽田空港に滞在がある人)をターゲットにして抽出してみました。

抽出した結果は以下になります。

順位 場所
1 新宿駅
2 東京駅
3 品川駅
4 有楽町駅
5 渋谷センター街
6 横浜駅
7 福岡空港
8 上野アメ横
9 新千歳空港
10 浜松町駅
11 池袋駅
12 秋葉原駅
13 大阪伊丹空港
14 博多駅
15 川崎駅
16 那覇空港
17 京急蒲田駅
18 西鉄福岡駅
19 新橋駅
20 すすきの駅
21 浅草仲見世商店街
22 札幌駅
23 ラフォーレ原宿ショッピングセンター
24 新大阪駅
25 GINZA SIX
26 東京スカイツリータウン
27 大阪駅
28 蒲田駅
29 恵比寿駅
30 二子玉川駅

 

羽田空港とセットとなる空港としては、

福岡空港、新千歳空港、大阪伊丹空港、那覇空港

でした。

羽田空港で東京に来て、その後の向かう先としては

新宿、渋谷、池袋、銀座、上野アメ横、原宿、浅草、東京スカイツリー
のような場所であったと推測できます。

 

2019年10連休(4/27~5/6)に東京スカイツリータウンに滞在したSilentLogユーザーの、その他の滞在場所ユーザー数トップ30を抽出

次に、羽田空港を利用した人が訪れた先として挙がっていた「東京スカイツリー」に着目して、そこに滞在があるユーザーについて抽出してみました。

東京スカイツリーに訪れた人がセットとして訪れる場所はどこだったか?を調べるためです。

抽出した結果は以下になります。

順位 場所
1 浅草仲見世商店街
2 東京駅
3 錦糸町駅
4 上野駅
5 秋葉原駅
6 有楽町駅
7 渋谷ハチ公
8 上野アメ横
9 新宿駅
10 北千住駅
11 渋谷ヒカリエ
12 新宿駅東口
13 オリナス錦糸町
14 銀座四丁目交差点
15 新橋駅
16 羽田空港第二ターミナル
17 曳舟駅
18 横浜駅
19 池袋駅西口
20 渋谷センター街
21 六本木ヒルズ
22 亀戸天神
23 GINZA SIX
24 池袋駅東口
25 日本橋三越本店
26 東京タワー
27 羽田空港第一ターミナル
28 本所吾妻橋駅
29 京成曳舟駅
30 お台場ダイバーシティ東京

 

東京スカイツリータウンとセットとなる観光地として、

浅草、上野アメ横、銀座、六本木ヒルズ、亀戸天神、東京タワー

が読み取れます。

また、

錦糸町、曳舟、北千住

は乗り換え駅であると推測できます。

 

今回の記事は以上となります。

今後も本ブログを通して発信していきます。

層の理論:その4

レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です.
前回の続きを書いていきます.

層係数コホモロジー(続)

定義13.(コホモロジー)\(\mathscr{F}\)を\(X\)上の層,\(0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^\ast (\mathscr{F})\)を\(\mathscr{F}\)の標準的軟弱分解とする.このとき,
$$\begin{align} Z_\Phi^p(X;\mathscr{F}) &= \mathrm{Ker}\{ \Gamma_\Phi (X; \mathscr{C}^p(\mathscr{F})) \to \Gamma_\Phi (X; \mathscr{C}^{p+1}(\mathscr{F})) \}\\
B_\Phi^p(X;\mathscr{F}) &= \mathrm{Im}\{ \Gamma_\Phi (X; \mathscr{C}^{p-1}(\mathscr{F})) \to \Gamma_\Phi (X; \mathscr{C}^p(\mathscr{F})) \} \\
H_\Phi^p(X;\mathscr{F}) &= Z_\Phi^p(X;\mathscr{F}) / B_\Phi^p(X;\mathscr{F}) \end{align}$$とおく.ここで,\(\mathscr{C}^{-1}(\mathscr{F}) = 0\)と約束する.\(H_\Phi^p(X;\mathscr{F})\)を,\(\mathscr{F}\)に係数をもち\(\Phi\)に台をもつ\(p\)次のコホモロジー群(cohomology group)という.

コホモロジー群の基本的な性質を示すために,ホモロジー代数の一般論から以下の補題を用意します(詳細は,例えば一松信『多変数解析函数論』p.181を見よ):

補題5.いま,$$0 \rightarrow A^\ast \xrightarrow{\mu} B^\ast \xrightarrow{\nu} C^\ast \rightarrow 0$$が複体の完全列とすれば,次のコホモロジー群の完全列が定義できる:$$\begin{align}
0 &\rightarrow H^0(A^\ast) \rightarrow H^0(B^\ast) \rightarrow H^0(C^\ast) \\ &\rightarrow H^1(A^\ast) \rightarrow H^1(B^\ast) \rightarrow H^1(C^\ast) \\ &\rightarrow H^2(A^\ast) \rightarrow H^2(B^\ast) \rightarrow H^2(C^\ast) \\ &\rightarrow H^3(A^\ast) \rightarrow \cdots \end{align}$$

定理3. (i) \(H_\Phi^0(X;\mathscr{F}) = \Gamma_\Phi (X; \mathscr{F})\) である.
(ii) 完全列$$0 \rightarrow \mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F} \xrightarrow{h} \mathscr{F}^{\prime \prime} \rightarrow 0 \qquad \cdots (\ast)$$が与えられれば,次の長完全列が存在する:$$\begin{align}0 &\rightarrow H_\Phi^0(X;\mathscr{F}^\prime) \rightarrow H_\Phi^0(X;\mathscr{F}) \rightarrow H_\Phi^0(X;\mathscr{F}^{\prime \prime}) \\ &\rightarrow H_\Phi^1(X;\mathscr{F}^\prime) \rightarrow H_\Phi^1(X;\mathscr{F}) \rightarrow H_\Phi^1(X;\mathscr{F}^{\prime \prime}) \\ &\rightarrow H_\Phi^2(X;\mathscr{F}^\prime ) \rightarrow \cdots \cdots \end{align}$$
(iii) 各行が層の完全列よりなる可換図式
f:id:reifrontier:20180205145225p:plain:w300
が与えられたとき,次の図式は可換である:
f:id:reifrontier:20180205145608p:plain:w400
(iv) \(\mathscr{F}\)が軟弱層ならば,$$H_\Phi^p(X;\mathscr{F}) = 0 ,\ p>0$$.
(証明) (i) \( 0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^1(\mathscr{F})\)の完全性により,つぎの完全性がしたがう:$$0 \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{C}^0(\mathscr{F})) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{C}^1(\mathscr{F}))$$(命題2).これが示すべきことである.
(ii) 定理1と定理2を組み合わせることにより,次の可換図式の各業の完全性が導かれる:
f:id:reifrontier:20180205145902p:plain:w500
これと補題5から長完全列が構成できる.
(iii) 明らか.
(iv) \(\mathscr{F}\)の標準的軟弱分解において,\(\mathscr{F}\)を含めすべての項が軟弱層である.ゆえに,系3により,$$0 \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{C}^0(\mathscr{F})) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{C}^1(\mathscr{F}))$$は完全列である.これが示すべきことである.■

定義14.(層の複体)層の複体(complex)とは,層\(\mathscr{L}^p ,\ p = 0,1,2,\ldots\)と準同型\(d^{\prime \prime}: \mathscr{L}^p \to \mathscr{L}^{p+1}\)の列$$0 \rightarrow \mathscr{L}^0 \xrightarrow{d^{\prime \prime}} \mathscr{L}^1 \xrightarrow{d^{\prime \prime}} \mathscr{L}^2 \xrightarrow{d^{\prime \prime}} \cdots$$で,\(d^{\prime \prime} \circ d^{\prime \prime} = 0\)なるものをいう.このとき,\(\mathscr{L}^\ast\)の\(p\)次のコホモロジー群とは,$$\mathscr{H}^p(\mathscr{L}^\ast) = \mathrm{Ker}(\mathscr{L}^p \xrightarrow{d^{\prime \prime}} \mathscr{L}^{p+1}) / \mathrm{Im}(\mathscr{L}^{p-1} \xrightarrow{d^{\prime \prime}} \mathscr{L}^p)$$なる商層のことである.

いま,\(\mathscr{C}^\ast(\mathscr{L}^q)\)を\(\mathscr{L}^q\)の標準的軟弱分解とし,$$\begin{align} d^\prime &: \mathscr{C}^p(\mathscr{L}^q) \to \mathscr{C}^{p+1}(\mathscr{L}^q) \\ d^{\prime \prime} &: \mathscr{C}^p(\mathscr{L}^q) \to \mathscr{C}^p(\mathscr{L}^{q+1}) \end{align}$$を準同型とすると,$$K^{p,q} = \Gamma_\Phi(X, \mathscr{C}^\ast(\mathscr{L}^q)) ,\ K = \bigoplus _{p,q} K^{p,q} \qquad \cdots ( \natural )$$なる2重複体を考えることができます.

定理4.\(\mathscr{F}\)を\(X\)上の層とする.$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{L}^0 \rightarrow \mathscr{L}^1 \rightarrow \cdots$$を\(\mathscr{F}\)のある分解,すなわち\(\mathscr{F}\)上の完全な複体とする.\(q = 0,1,2,\ldots\)に対し,$$H_\Phi^p(X;\mathscr{L}^q) = 0$$が成立すれば,$$H_\Phi^p(X;\mathscr{F}) = H^p(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{L}^\ast)) \quad q \geq 0$$が成立する.ここで,\(H^p(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{L}^\ast))\)は複体\(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{L}^\ast)\)の\(p\)次のコホモロジー群を表す.
(証明) \( (\natural)\)の記号のもとで,以下の可換図式を考える.ただし,\(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{F})\)を\(\Gamma_\Phi(\mathscr{F})\)と書くように,\(X\)を省略している:
f:id:reifrontier:20180205151832p:plain:w600
コホモロジー群に関する仮定により,第二列以降の列はすべて完全である.また,\(\mathscr{C}^p(\mathscr{F})\)は軟弱であり,定理2により\(p = 0,1,2,\ldots\)に対し,$$0 \rightarrow \mathscr{C}^p(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^p(\mathscr{L}^0) \rightarrow \mathscr{C}^p(\mathscr{L}^1) \rightarrow \cdots$$は完全であるから,定理3(iv)により第一列のコホモロジー群と第一行のコホモロジー群は同型になる.これより結論を得る.■

系4.$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{L}^0 \rightarrow \mathscr{L}^1 \rightarrow \cdots$$を層\(\mathscr{F}\)の軟弱分解とすれば,定理4の同型が成立する.
(証明) 定理3(iv)により,定理4の仮定が成り立つ.■

相対コホモロジー群

定義15.(相対コホモロジー)\(S\)を位相空間\(X\)の部分集合とするとき,$$\Phi_S = \{ A \subset X ; A \subset S かつ A は X で閉 \}$$は\(X\)で台の族をなす.この\(\Phi_S\)で$$H_S^p(X;\mathscr{F}) = H_{\Phi_S}^p(X;\mathscr{F})$$と定義し,\(S\)に台をもち\(\mathscr{F}\)に係数をもつ\(X\)の\(p\)次の相対コホモロジー群(relative cohomology group)という.\(S=X\)のときは次のように書く:$$H^p(X;\mathscr{F}) = H_X^p(X;\mathscr{F})$$

以下では,\(S\)が\(X\)の閉集合の場合のみ\(H_S^p(X;\mathscr{F})\)を考察することにします.もし\(S\)が閉集合ならば,\(\Phi_S\)は\(S\)の閉部分集合の全体と一致します.
相対コホモロジー群は,定理3の性質の他に,次の性質をもちます:

定理5.(切除定理)\(S \subset X\)を局所閉,\(W_1 , W_2\)を\(S\)の開近傍とする.このとき,$$H_S^p(W_1;\mathscr{F}) \cong H_S^p(W_2;\mathscr{F})$$なる同型がある.
(証明) \(0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{L}^0 \rightarrow \mathscr{L}^1 \rightarrow \cdots \)を\(\mathscr{F}\)の軟弱分解とする.系4により,\(j = 1,2\)に対して$$H_S^p(W_j;\mathscr{F}) = H^p(\Gamma_S(W_j;\mathscr{L}^\ast))$$ゆえに\(\Gamma_S(W_1;\mathscr{L}^k) \cong \Gamma_S(W_2;\mathscr{L}^k)\)より望んでいた同型が得られる.■

定義16.\(S \subset X\)は局所閉とする.$$H^p[S;\mathscr{F}] = \mathrm{ind-}\lim_{W \in \mathfrak{R}(S)}H_S^p(W;\mathscr{F})$$とおく.ここで\(\mathfrak{R}(S)\)は\(S\)の開近傍全体を表す.
切除定理により,\(W \in \mathfrak{R}(S)\)に対して標準的写像$$H_S^p(W;\mathscr{F}) \overset{\sim}\longrightarrow H^p[S;\mathscr{F}]$$は同型です.また,とくに\(S\)が開集合であれば$$H^p(S;\mathscr{F}) \cong H^p[S;\mathscr{F}]$$が成り立ちます.

定理6. (i) \(S \subset X\)を局所閉,\(W \in \mathfrak{R}(S)\)とする.このとき,次の長完全列がある:$$\begin{align} 0 &\rightarrow H_S^0(W;\mathscr{F}) \rightarrow H^0(W;\mathscr{F}) \rightarrow H^0(W\setminus S;\mathscr{F}) \\ &\rightarrow H_S^1(W;\mathscr{F}) \rightarrow H^1(W;\mathscr{F}) \rightarrow H^1(W\setminus S;\mathscr{F}) \\ &\rightarrow H_S^2(W;\mathscr{F}) \rightarrow \cdots \end{align}$$ (ii) \(W_1 \supset W_2 \supset W_3\)を\(X\)の開集合とすれば,次の列は完全である:$$\begin{align} 0 &\rightarrow H_{W_1 \setminus W_2}^0(W_1;\mathscr{F}) \rightarrow H_{W_1 \setminus W_3}^0(W_1;\mathscr{F}) \rightarrow H_{W_2 \setminus W_3}^0(W_2;\mathscr{F}) \\ &\rightarrow H_{W_1 \setminus W_2}^1(W_1;\mathscr{F}) \rightarrow H_{W_1 \setminus W_3}^1(W_1;\mathscr{F}) \rightarrow H_{W_2 \setminus W_3}^1(W_2;\mathscr{F}) \\ &\rightarrow H_{W_1 \setminus W_2}^2(W_1;\mathscr{F}) \rightarrow \cdots \end{align}$$
(証明) \(\mathscr{L}\)が軟弱層であるとすれば,系1より,列$$0 \rightarrow \Gamma_S(W;\mathscr{L}) \rightarrow \Gamma(W;\mathscr{L}) \rightarrow \Gamma_S(W\setminus S;\mathscr{L}) \rightarrow 0$$は完全である.したがって,\(0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{L}^\ast\)を\(\mathscr{F}\)の軟弱分解とすれば,次の複体の列は完全である:$$0 \rightarrow \Gamma_S(W;\mathscr{L}^\ast) \rightarrow \Gamma(W;\mathscr{L}^\ast) \rightarrow \Gamma_S(W\setminus S;\mathscr{L}^\ast) \rightarrow 0$$ゆえに,補題5によりコホモロジー群の長完全列を得る.
(ii) 複体の完全列$$0 \rightarrow \Gamma_{W_1 \setminus W_2}(W_1;\mathscr{L}^\ast) \rightarrow \Gamma_{W_1 \setminus W_3}(W_1;\mathscr{L}^\ast) \rightarrow \Gamma_{W_2 \setminus W_3}(W_2;\mathscr{L}^\ast) \rightarrow 0$$により結論を得る.■

系5.\(S_1 \subset X\)を局所閉,\(S_2 \subset S_1\)を\(S_1\)の閉部分集合とする.このとき,次は完全列である:$$\begin{align} 0 &\rightarrow H^0[S_2;\mathscr{F}] \rightarrow H^0[S_1;\mathscr{F}] \rightarrow H^0[S_1\setminus S_2;\mathscr{F}] \\ &\rightarrow H^1[S_2;\mathscr{F}] \rightarrow H^1[S_1;\mathscr{F}] \rightarrow H^1[S_1\setminus S_2;\mathscr{F}] \\ &\rightarrow H^2[S_2;\mathscr{F}] \rightarrow \cdots \end{align}$$
(証明2) \(S_1 = W_1 \setminus W_3 ,\ S_2 = W_1 \setminus W_2\)となるように\(W_1 \supset W_2 \supset W_3\)を選び,定理6(ii)を用いればよい.■

参考文献

[1] 森本光生(1976), "佐藤超関数入門", 共立出版

層の理論:その3

レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です.
前回の続きを書いていきます.

前層(続)

前層と層の関係を調べるため,\(X\)の開被覆\(\mathfrak{W}\)に対し以下のような条件を仮定します:

仮定1.\(\mathfrak{W}\)は次の条件(W1),
(W2)をみたす:
(W1) 任意の\(x \in X\)に対して,$$\mathfrak{W}_x = \{ W \in \mathfrak{W} ; x \in W \}$$は\(x\)の基本近傍系をなす.
(W2) \(W_1 , W_2 \in \mathfrak{W}\)ならば\(W_1 \cap W_2 \in \mathfrak{W}\).

定義10.(芽)\( (F, \rho ) \)を\(X\)の開被覆\(\mathfrak{W}\)上の前層とする.\(\mathfrak{W}_x\)に包含関係による順序をいれると有向集合になる.\(\rho _{W_2} ^{W_1}\)に関して帰納極限をとり,
$$\mathscr{F}_x = \mathrm{ind-}\lim\{F(W) ; W \in \mathfrak{W}_x\}$$とおく.\(\mathscr{F}_x\)は自然にAbel群の構造をもつ.\(\mathscr{F}_x\)を前層\( (F, \rho) \)の\(x\)における芽(germ)という.\(F(W)\)により\(\mathscr{F}_x\)への標準的写像による\(f\in F(W)\)の像を\(f_x\)と書き,\(f\)の\(x\)における芽という.

$$\mathscr{F} = \bigsqcup \{\mathscr{F}_x ; x \in X\}$$とおきます.ここで,\(\sqcup\)は\(x \not= y\)のとき\(\mathscr{F}_x\)と\(\mathscr{F}_y\)は互いに素であるとして合併をとることを意味します.\(\mathscr{F}\)に$$\{ \{ f_x ; x \in X \} ; f \in F(W) , W \in \mathfrak{W} \}$$を開基とする位相を導入します.\( \pi : \mathscr{F} \to X \)を\( \pi(f_x) = x\)によって定めます.\(\pi\)は全射であり,\(\mathscr{F}\)の位相の入れ方により,\(\pi\)は局所位相同型です.\( (\mathscr{F}, \pi ) \)は\(X\)上の層となっています.この層を前層\( (F, \rho ) \)に同伴する層,あるいは\( F\)の芽のなす層と呼びます.
帰納極限の性質により,次の命題が成り立ちます:

命題3.\( (F, \rho ) , (F^\prime, \rho^\prime ) , (F^{\prime \prime }, \rho^{\prime \prime} ) \)を前層とし,\((\mathscr{F},\pi),(\mathscr{F}^\prime,\pi^\prime),(\mathscr{F}^{\prime \prime},\pi^{\prime \prime })\)をそれぞれに同伴する層とする.\(\mu : F \to F^\prime \)なる前層の準同型があれば,\(h_\mu :\mathscr{F} \to \mathscr{F}^\prime\)なる層の準同型が自然に定義でき,次の性質をもつ:
(1) \(\mu = \mathrm{id} \)ならば\(h_\mu =\mathrm{id}\).
(2) \(\mu_1 : F \to F^\prime\),\(\mu_2 : F^{\prime \prime }\to F\)が前層の準同型ならば,$$h_{\mu_1 \circ \mu_2} = h_{\mu_1} \circ h_{\mu_2}.$$
いま,逆に\(X\)上に層\(\mathscr{F}\)が与えられたとすれば,\(X\)の開集合\(W\)に\(\Gamma(W;\mathscr{F})\)を対応させると,\(X\)上の前層\(\Gamma(\quad ;\mathscr{F})\)が定まります(実際,\(W_1 \supset W_2 \)のとき\(\Gamma(W_1 ;\mathscr{F}) \to \Gamma(W_2 ;\mathscr{F})\)を切断の制限写像とすればよい).\(\Gamma(\quad ;\mathscr{F})\)を\(\mathscr{F}\)の切断の前層といいます.前層\(\Gamma(\quad ;\mathscr{F})\)に同伴する層はもとの層\(\mathscr{F}\)と同型です.

\(\mathfrak{W}\)を条件(W1),(W2)をみたす\(X\)の開被覆とします.\(F\)を\(\mathfrak{W}\)上の前層とし,\(\mathscr{F}\)で\(F\)に同伴する層を表します.\(f \in F(W)\)に対し,$$\sigma_W(f)(x) = f_x, \qquad x \in W$$で\(\sigma_W(f) \in \Gamma(W;\mathscr{F})\)を対応させることにより,$$\sigma_W : F(W) \to \Gamma(W;\mathscr{F})$$なる前層の準同型が定義されます.

命題4.任意の\(W \in \mathfrak{W}\)に対し,上のように定めた\(\sigma_W\)が単射であるための必要十分条件は,次のようである:
(S1) \(W,W_\alpha \in \mathfrak{W}, \alpha \in A\)で\( W = \cup \{W_\alpha ; \alpha \in A\}\)なるものと\(f \in F(W)\)に対し,$$任意の \alpha \in Aに対し
\rho _{W_\alpha} ^W f = 0 ならば f = 0.$$
(証明) \(f \in F(W)\)が\(\sigma_W(f) = 0\)をみたすとする.条件(W1)により,任意の\(x \in W\)に対して\(x\)の近傍\(W_x \subset W , W_x \in \mathfrak{W}\)が存在して,\(\rho _{W_x} ^W f = 0\)となる.\(W = \cup \{ W_x ; x \in W \}\)であるから,条件(S1)により\(f = 0\).逆も同様に示される.■

命題5.条件(S1)を仮定する.任意の\(W \in \mathfrak{W}\)に対し,\(\sigma_W\)が全射となるための必要十分条件は,次のようである:
(S2) \(W , W_\alpha \in \mathfrak{W} , \alpha \in A\)で\(W = \cup \{ W_\alpha ; \alpha \in A \}\)なるものと\(f_\alpha \in F(W_\alpha) \)に対し,張り合わせの条件$$任意の\alpha, \beta \in A に対し,\rho _{W_\alpha \cap W_\beta} ^{W_\alpha} f_\alpha = \rho _{W_\alpha \cap W_\beta} ^{W_\beta} f_\beta$$が成立すれば,\(f \in F(W)\)が存在して,任意の\(\alpha \in A\)に対して$$\rho _{W_\alpha} ^{W} f = f_\alpha$$をみたす.
(証明) (S2)を仮定する.\(s \in \Gamma(W;\mathscr{F}) \)とする.任意の\(x \in W\)に対して,\(x\)の近傍\(W_x \in \mathfrak{W} , W_x \subset W\)と\(f^x \in F(W_x)\)が存在して,$$\sigma_{W_x}(f^x) = s|_{W_x}$$が成立する.\(\sigma_{W_x}\)は単射であると仮定したので,\(s\)が切断であることにより,\(f^x \in F(W_x)\)は張り合わせの条件をみたす.ゆえに,(S2)より\(f \in F(W)\)が存在して,\(\rho _{W_x} ^W f = f^x\).したがって,$$\sigma_W(f)(x) = f_x = (f^x)_x = s(x)$$である.逆も同様.■

(W1),(W2)をみたす被覆\(\mathfrak{W}\)上で定義された前層\(F\)が条件(S1),(S2)をみたすとき,\(F\)は層である,ということもあります.このとき,\(\mathscr{F}\)を前層\(F\)に同伴する層とすれば,\(W \in \mathfrak{W}\)に対し,同型\(\sigma_W : F(W) \to \Gamma(W;\mathscr{F})\)により,\(F(W)\)と\(\Gamma(W;\mathscr{F})\)を同一視します.このようにして,\(F\)と\(\mathscr{F}\)は完全に対応しているので,このような呼び方による混乱は生じません.条件(S1),(S2)を局所化(localization)の条件といいます.(S1)は,「局所的にゼロならば,大域的にもゼロ」あるいは「局所的に一致すれば大域的にも一致」を意味します.(S2)は,局所的に与えられた切断が張り合わせの条件をみたせば,それらを張り合わせて大域的な切断が作れる,ということを意味します.

層係数コホモロジー

定義11.(軟弱層)\(X\)上の層\(\mathscr{F}\)が軟弱(flabby)であるとは,\(X\)の任意の開集合\(W\)に対し,制限写像$$\Gamma(X;\mathscr{F}) \to \Gamma(W;\mathscr{F})$$が全射となることとする.

系1.\(W_1\)と\(W_2\)を\(W_1 \supset W_2\)なる\(X\)の開集合とすれば,軟弱層\(\mathscr{F}\)に対し,$$\Gamma(W_1;\mathscr{F}) \to \Gamma(W_2;\mathscr{F})$$は全射である.

定理1.\(\Phi\)を\(X\)上の台の族,\(\mathscr{F},\mathscr{F}^\prime , \mathscr{F}^{\prime \prime}\)を\(X\)上の層とし,\(\mathscr{F}^\prime\)は軟弱であると仮定する.もし,$$0 \rightarrow \mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F} \xrightarrow{h} \mathscr{F}^{\prime \prime} \rightarrow 0 \qquad \cdots (\ast)$$が完全であれば,$$0 \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^\prime) \xrightarrow{i} \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) \xrightarrow{h} \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^{\prime \prime}) \rightarrow 0$$も完全である.
(証明) 命題2があるので,\(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) \to \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^{\prime \prime})\)が全射であることを示せばよい.\(s^{\prime \prime} \in \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^{\prime \prime })\)に対して,次の対\( (s, V) \)を考える:
\(V\)は\(X\)の開集合で,\(s \in \Gamma_{\Phi \cap V}(V; \mathscr{F})\)は条件$$h(s) = s^{\prime \prime}|_V, \mathrm{supp} s \subset \mathrm{supp} s^{\prime \prime}$$をみたす.
列\( (ast) \)は完全であるから,これらの対の全体\( \{ (s, V) \} \)は空ではない.いま,\(V_1 \supset V_2\)かつ\(V_2\)上で\(s_1 = s_2\)となるとき\( (s_1, V_1) \geq (s_2, V_2) \)と順序を定義すれば,\( \{ (s, V) \} \)は帰納的順序集合をなす.
Zornの補題により存在が保証される,\(\mathrm{supp} s^{\prime \prime }\)の補集合上のゼロ切断より大きな極大元を\( (s,V) \)とする(\(\mathrm{supp} s^{\prime \prime } = X\)ならば任意の極大元をとればよい).\(V = X\)となることを背理法によって示そう.
\(V \not= X\)とする.すなわち,\(x \not\in V\)が存在すると仮定する.\( (\ast )\)の完全性により,\(x\)の近傍\( V(x) \)と\(s_1 \in \Gamma(V(X); \mathscr{F})\)をみつけて\(h(s_1) = s^{\prime \prime } |_{V(x)}\)としてよい.したがって,\(V \cap V(x)\)上では\(h(s_1 - s) = 0\)が成り立つ.命題2により,\(s^\prime \in \Gamma(V\cap V(X); \mathscr{F}^\prime )\)が存在して,\(i(s^\prime ) = s - s_1\)となる.\(\mathscr{F}^\prime \)は軟弱層と仮定したから,\(s^\prime \)の拡張\(s_1^\prime \in \Gamma(X ; \mathscr{F}^\prime)\)が存在する.いま,$$\tilde S(x) = \begin{cases} s(x) & x \in V \\ s_1(x) + i(s_1^\prime )(x) & x \in V(x) \end{cases}$$とおけば,\(\tilde s \in \Gamma(V \cup V(x) ; \mathscr{F})\)かつ\(h(\tilde s) = s^{\prime \prime}\)となる.\(\mathrm{supp} \tilde s \subset \mathrm{supp} s^{\prime \prime} \cap ( V \cup V(x))\).これは\( (s,V) \)の極大性に反する.■

系2.
(i) 層の完全列$$0 \rightarrow \mathscr{F}^\prime \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{F}^{\prime \prime} \rightarrow 0$$において,\(\mathscr{F}^\prime\)と\(\mathscr{F}\)がともに軟弱層であれば,\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)も軟弱層である.
(ii) 層の系列$$0 \rightarrow \mathscr{F}^0 \rightarrow \mathscr{F}^1 \rightarrow \mathscr{F}^2 \rightarrow \cdots \rightarrow \mathscr{F}^m \rightarrow 0$$が層の完全列であれば,\(\mathscr{F}^j (0 \leq j \leq m-1)\)の軟弱性より\(\mathscr{F}^m\)の軟弱性がしたがう.
(証明)
(i)次の可換図式により明らか:
f:id:reifrontier:20180202181833p:plain:w300
(ii) \(\mathscr{Z}^j = \mathrm{Ker} (\mathscr{F}^j \to \mathscr{F}^{j+1}) = \mathrm{Im} (\mathscr{F}^{j-1} \to \mathscr{F}^j)\)とおけば,\(\mathscr{Z}^1 = \mathscr{F}^0 , \mathscr{Z}^m = \mathscr{F}^m\)で,$$0 \rightarrow \mathscr{Z}^j \rightarrow \mathscr{F}^j \rightarrow \mathscr{Z}^{j+1} \rightarrow 0$$は完全である.まとめれば,次の可換図式となる:
f:id:reifrontier:20180202183336p:plain:w600
短い完全列の各々に(i)を適用すれば,すべての\(\mathscr{Z}^j\)は軟弱.とくに,\(\mathscr{Z}^m = \mathscr{F}^m\)も軟弱である.■

系3.層の完全列$$0 \rightarrow \mathscr{F}^0 \rightarrow \mathscr{F}^1 \rightarrow \mathscr{F}^2 \rightarrow \cdots \qquad \cdots ( \ast \ast )$$において,各\(\mathscr{F}^j , j = 0,1,2,\ldots \)がすべて軟弱層ならば,Abel群の列$$0 \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^0) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^1) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^2) \rightarrow \cdots$$も完全である.
(証明) 完全列\( (\ast \ast ) \)を,系2(ii)の証明と同様に,短い完全列\( 0 \rightarrow \mathscr{Z}^j \rightarrow \mathscr{F}^j \rightarrow \mathscr{Z}^{j+1} \rightarrow 0 \)に分解する.系2(ii)により,\(\mathscr{Z}^j\)はすべて軟弱である.よって,短い完全列の各々に定理1を適用すればよい.■

定義12.(軟弱分解)層\(\mathscr{F}\)の軟弱分解(flabby resolution)とは,$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{L}^0 \rightarrow \mathscr{L}^1 \rightarrow \mathscr{L}^2 \rightarrow \cdots \qquad \cdots (\star )$$なる層の完全列で,各\(\mathscr{L}^j , j = 0,1,2,\ldots \)が軟弱層であるものをいう.
\( (\star )\)を$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{L}^\ast$$と略記することがある.

さて,\(X\)上の任意の層\(\mathscr{F}\)に対して\(\mathscr{F}\)の軟弱分解が存在することを示してみましょう.
\(\mathscr{C}^0(W;\mathscr{F})\)を,開集合\(W\)から\(\mathscr{F}\)への任意の写像\(s\)で,\(\pi \circ s = \mathrm{id}\)をみたすものの全体とします.ただし,\(\pi : \mathscr{F} \to X\)は層の射影です.\(W \mapsto \mathscr{C}^0(W;\mathscr{F})\)は前層で,局所化の条件(S1),(S2)を満たしています.これに同伴する層を\(\mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)と書くと,$$\mathscr{C}^0(W;\mathscr{F}) = \Gamma(W;\mathscr{C}^0(\mathscr{F}))$$で,\(\mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)は軟弱層です.
\(\mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)の定義により,\(\mathscr{F} \to \mathscr{C}^0(\mathscr{F})\)なる自然な単射が存在します.この余核を\(\mathscr{Z}^0(\mathscr{F})\)で表します.すなわち,$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{Z}^0(\mathscr{F}) \rightarrow 0$$は完全列です.帰納的に,$$0 \rightarrow \mathscr{Z}^{j-1}(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{Z}^{j-1}(\mathscr{F})) \rightarrow \mathscr{Z}^j(\mathscr{F}) \rightarrow 0$$が完全列になるように層\(\mathscr{Z}^j(\mathscr{F}) , j = 1,2,\ldots \)を定めて$$\mathscr{C}^j(\mathscr{F}) = \mathscr{C}^0(\mathscr{Z}^{j-1}(\mathscr{F})) ,\quad j = 1,2,\ldots$$とおけば\(\mathscr{C}^j(\mathscr{F})\)はすべて軟弱層であって,$$0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^0(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^1(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^2(\mathscr{F}) \rightarrow \cdots \qquad \cdots ( \star \star )$$は完全列です.\( ( \star \star ) \)を\(\mathscr{F}\)の標準的軟弱分解(canonical flabby resolution)といい,\(0 \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{C}^\ast (\mathscr{F})\)で表します.

定理2.\( (\ast) \)を層の完全列とすれば,次の層の複体の完全列(きちんとした定義は後に述べる)が自然に定義される:$$0 \rightarrow \mathscr{C}^*(\mathscr{F}^\prime) \rightarrow \mathscr{C}^*(\mathscr{F}) \rightarrow \mathscr{C}^*(\mathscr{F}^{\prime \prime}) \rightarrow 0$$
(証明) 次の図式を考える:
f:id:reifrontier:20180205143109p:plain:w500
全ての列と第一行と第二行は完全であるから,9-lemmaにより第三行の完全性が出る.以下,これを繰り返せばよい.■


次回に続きます.

層の理論:その2

レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です.
前回の続きを書いていきます.

層(続)

定義4.(台)\(s \in \Gamma(W; \mathscr{F})\)とする.このとき,$$\mathrm{supp} s = \{ x \in W ; s(x) \not= 0(x) \}$$とおき,切断\(s\)の台という.
補題4より,\(\mathrm{supp} s \)は\(W\)の閉集合です.
いま,\(S\)を\(W\)の閉部分集合とします.このとき,$$\Gamma_s(W;\mathscr{F}) = \{s \in \Gamma(W;\mathscr{F}) ; \mathrm{supp} s \subset S\}$$とおきます.自然な写像のなす列と,$$0 \rightarrow \Gamma_s(W;\mathscr{F}) \rightarrow \Gamma(W; \mathscr{F}) \rightarrow \Gamma(W \setminus S ; \mathscr{F})$$は完全列です.\(W\)と\(W^\prime\)をともに\(S\)の開近傍としたとき,\(\Gamma_S(W;\mathscr{F})\)と\(\Gamma_S(W^\prime ; \mathscr{F})\)は同型です.

ここで,新たに記号を導入します:

定義5.\(S\)を\(X\)の局所閉集合とする.\(\mathfrak{R}(S)\)で\(S\)の開近傍の全体を表し,包含関係で順序づけ,有向集合とする.$$\Gamma[S; \mathscr{F}] = \mathrm{ind-}\lim{W \in \mathfrak{R}(S)} \Gamma_S(W; \mathscr{F})$$とおく.
任意の\(W \in \mathfrak{R}(S)\)に対し,標準的写像$$\Gamma_S(W;\mathscr{F}) \to \Gamma[S;\mathscr{F}]$$は同型です.もし\(S\)が開集合ならば,\(S\in \mathfrak{R}(S)\)で\(\Gamma_S(S;\mathscr{F}) = \Gamma(S;\mathscr{F})\)であるので,$$\Gamma(S;\mathscr{F}) \to \Gamma[S;\mathscr{F}]$$は同型です.\(\Gamma[S;\mathscr{F}]\)を\(\mathscr{F}[S]\)と書くこともあります.

もう一つ,記号を導入します:

定義6.\(Y\)を\(X\)の部分集合とする.$$\mathscr{F}(Y) = \mathrm{ind-}\lim_{W \supset Y} \Gamma(W;\mathscr{F})$$とおく.ここで\(W\)は\(Y\)を含む開集合の全体にわたる.
\(Y\)が開集合ならば$$\mathscr{F}(Y) = \Gamma(Y; \mathscr{F})$$ですが,一般の部分集合\(Y\)に対しては\(\mathscr{F}(Y)\)から\(\Gamma(Y;\mathscr{F})\)への自然な(制限)写像は必ずしも同型とは限りません.

定義7.(台の族)次の3つの条件をみたす\(X\)の部分集合の族\(\Phi\)を台の族(family of supports)という:
(1) \(A \in \Phi\)は閉集合.
(2) \(A \in \Phi, A_1 \subset A\)で\(A_1\)が閉ならば\(A_1 \in \Phi\).
(3) \(A_1,A_2 \in \Phi\)ならば\(A_1\cup A_2 \in \Phi\).
例えば,$$\Phi_X = \{ A; A はXの閉集合\}$$とおけば,\(\Phi_X\)は\(X\)の台の族となっています.いま,\(\Phi\)を台の族とします.\(X\)の部分集合\(S\)に対して,$$\Phi |_S = \{ A \in \Phi ; A \subset S\}$$は\(X\)の台の族です.$$\Phi \cap S = \{ A \cap S ; A \in \Phi \}$$とおくと,\(\Phi \cap S\)は\(S\)の中で台の族をなしています.\(S \subset X\)に対し,$$\Phi_S = \Phi_X |_S = \{ A ; A \subset S かつ A は X で閉\}$$とおきます.\(S\)が\(X\)の閉集合ならば,\(\Phi_S = \Phi_X \cap S\)が成り立ちます.

\(\mathscr{F}\) を\(X\)上の層とし,\(\Phi\)を台の族とするとき,$$\Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) = \{ s \in \Gamma(X;\mathscr{F}) ; \mathrm{supp} s \in \Phi\}$$とおきます.\(\Phi\)は台の族であるということから,\(\Gamma_\Phi(X;\mathscr{F})\)はAbel群となります.
\(S \subset X\)を閉集合としたとき,次の式が成り立ちます:$$\Gamma_S(X;\mathscr{F}) = \Gamma_{\Phi_S}(X;\mathscr{F})$$とくに,$$\Gamma(X;\mathscr{F}) = \Gamma_{\Phi_X}(X;\mathscr{F})$$です.\(\mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F}\)が層の準同型であるとすれば,\(s^\prime \in \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^\prime)\)に\(i \circ s^\prime \in \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F})\)を対応させることにより,Abel群の準同型$$\Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^\prime) \xrightarrow{i} \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F})$$が定まります.このとき,次の命題が成立します:

命題2.\(\Phi\)を\(X\)の台の族とする.$$0 \rightarrow \mathscr{F}^\prime \rightarrow \mathscr{F} \rightarrow \mathscr{F}^{\prime \prime}$$が\(X\)上の層の完全列であれば,誘導されるAbel群の準同型の列$$0\rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^\prime) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}) \rightarrow \Gamma_\Phi(X;\mathscr{F}^{\prime \prime})$$も完全である.

前層

定義8.(前層)\(X\)を位相空間,\(\mathfrak{W}\)をその開被覆(open covering)とする.すなわち,$$X = \cup\{W; W \in \mathfrak{W} \}$$であるとする.次の性質を満足する\( (F, \rho )\)の組を,\(\mathfrak{W}\)上の(Abel群の)前層(presheaf)という:
(1) 任意の\(W_1 \in \mathfrak{W}\)に対し,Abel群\(F(W)\)が対応する.
(2) \(W_1 \supset W_2\)なる\(W_1, W_2 \in \mathfrak{W}\)に対し,Abel群の準同型$$\rho _{W_2} ^{W_1} : F(W_1) \to F(W_2)$$が対応する.
(3) \(\rho _W ^W = \mathrm{id}\).
(4) \(W_1 \supset W_2 \supset W_3\)なる\(W_1, W_2, W_3 \in \mathfrak{W}\)に対し,次の図式が可換である:
f:id:reifrontier:20180202140519p:plain:w200
\(\mathfrak{W}\)が\(X\)のすべての開集合よりなる被覆の場合は,\(\mathfrak{W}\)上の前層を\(X\)上の前層といいます.
\(F(W)\)が環で,\(\rho _{W_2} ^{W_1}\)が環の準同型であるとき,\( (F,\rho) \)を\(\mathfrak{W}\)上の環の前層といいます.\( (G, \rho )\)が\(\mathfrak{W}\)上の環の前層とします.このとき,\(\mathfrak{W}\)上のAbel群の前層\( (F,\rho ) \)が\(G\)-加群の前層であるとは,各\(F(W)\)が\(G(W) \)-加群で,なおかつ\(\rho _{W_2} ^{W_1} : F(W_1) \to F(W_2)\)が次の意味で加群の準同型となることをいいます:
任意の\(f \in F(W_1)\)と\(g \in F(W_1)\)に対し,$$\rho _{W_2} ^{W_1}(gf) = \rho _{W_2} ^{W_1}(g)\rho _{W_2} ^{W_1}(f)$$

前層の例をいくつか挙げておきます:

例1.\(X\)を位相空間,\(M\)をAbel群とする.\(X\)の開集合\(W\)に対して\(F(W)=M\)とおき,\(W_1 \supset W_2\)に対しては\(\rho_{W_2}^{W_1} = \mathrm{id}\)とすれば,\(X\)上のAbel群の前層が定義される.これを定数前層(constant presheaf)といい,\(M = M_X\)で表す.もし\(M\)が環構造をもてば,定数前層\(M_X\)は環の前層の構造をもつ.

例2.\(X\)を位相空間とする.\(F(W) = \mathbb{C}^W = (W上の\mathbb{C}値関数の全体) \)とおき,\(\rho_{W_2}^{W_1}\)を通常の制限写像とする.こうして定義される\(X\)上の環の前層を,任意関数の前層という.

例3.\(m = 0,1,2,\ldots , \infty \)とする.\(\mathbb{R}^n\)の開集合\(u\)に対し,\(C^m(u)\)で\(m\)回連続微分可能な関数の全体のなす環を表す.\(\rho_{u_2}^{u_1}\)は通常の制限写像であるとすれば,\(\mathbb{R}^n\)上の環の前層が定まる.これを\(C^m\)で表そう.
また,\(\mathscr{D}^\prime (u)\)で\(u\)上のSchwartz超関数の全体,\(\rho_{u_2}^{u_1}\)をSchwartz超関数の制限写像とすると,\(\mathscr{D}^\prime\)は\(\mathbb{R}^n\)の\(C^\infty\)-加群の前層をなす.

例4.\(u\)を\(\mathbb{R}^n\)の開集合としたとき,\(W\)に\(L^p(u) = (p乗\text{Lebesgue}可積分関数の全体) \)を対応させ,\(\rho_{u_2}^{u_1}\)を制限写像とすると,\(\mathbb{R}^n\)上に前層が定まる.

以下,Abel群の前層を単に前層と呼びます.

定義9.(準層の準同型)開被覆\(\mathfrak{W}\)上の前層\( (F, \rho )\)と\( (F^\prime , \rho^\prime )\)が与えられたとき,\( (F, \rho )\)から\( (F^\prime , \rho^\prime )\)への準同型\(\mu\)とは,各\(W \in \mathfrak{W}\)に対して定まったAbel群の準同型$$\mu_W : F(W) \to F^\prime(W)$$の組であって,\(W_1 \supset W_2\),\(W_1, W_2 \in \mathfrak{W}\)に対して次の図式が可換であるものをいう:
f:id:reifrontier:20180202143359p:plain:w200
\( (F, \rho )\)と\( (F^\prime , \rho^\prime )\)が環の前層のとき,\(\mu\)が環の前層の準同型であるとは,上の条件の他に,\(\mu_W\)が環の準同型でもあるときにいいます.同様に,環の前層を係数にもつ加群の前層の準同型も定義されます.
\(F(W)\)が\(F^\prime(W)\)の部分群で,\(\rho_{W_2}^{W_1}\)が\(\rho_{W_2}^{\prime W_1}\)の制限であれば,\(\mu_W\)を標準的単射として\( (F, \rho) \to (F^\prime , \rho^\prime )\)なる前層の準同型が定まります.このとき,\( (F, \rho) \)は\( (F^\prime, \rho^\prime )\)の部分前層であるといいます.

例5.\(m \leq m^\prime\)ならば,\(C^{m^\prime}\)は\(C^m\)の部分前層である.


次回に続きます.

層の理論:その1

レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です.

層の定義と、その基本的な性質について述べます.

定義1(層)位相空間\(X\)上の(Abel群の)層(sheaf)とは,次のような組\((\mathscr{F}, \pi)\)のことをいう:
(1) \(\mathscr{F}\)は位相空間.
(2) \(\pi: \mathscr{F} \to X\)は全射かつ局所位相同型.すなわち,任意の\(p \in \mathscr{F}\)に対してある開近傍\(U\)が存在して,\(\pi(U)\)が\(X\)の開集合で,$$\pi |_U : U \to \pi(U)$$が位相同型である.
(3) 任意の\(x \in X\)に対して,$$\mathscr{F}_x = \pi^{-1}(x)$$はAbel群.
(4) 次の意味で,群の演算は連続である:$$\mathscr{F} + \mathscr{F} = \{ (p_1, p_2) \in \mathscr{F} \times \mathscr{F} ; \pi(p_1) = \pi(p_2) \}$$とおくと,加法\( (p_1, p_2) \mapsto p_1 + p_2\)は\(\mathscr{F} + \mathscr{F}\)から\(\mathscr{F}\)への写像であるが,これが連続である.
\(\pi\)を射影(projection)といい,\(\mathscr{F}_x = \pi^{-1}(x)\)を\(x\)上の茎(stalk)といいます.定義1の(2)により,射影は開写像であることが分かります.
\mathscr{F}を\(X\)上の層,\(Y \subset X\)を部分空間としたとき,\( (\pi^{-1}(Y), \pi |_{\pi^{-1}(Y)} ) \)は\(Y\)上の層を与えます.ここで,\(\pi^{-1}(Y)\)には\(\mathscr{F}\)の開集合としたの位相を与えます.これを\(\mathscr{F}|_Y\)と書き,層\(\mathscr{F}\)の\(Y\)への制限といいます.
定義1において,「Abel群」を「環」でおきかえ,(4)で加法および乗法\( (p_1, p_2) \mapsto p_1 p_2\)の連続性を仮定すれば,環の層が定義できます.いま\( (\mathscr{G}, \sigma) \)を環の層として,Abel群の層\( (\mathscr{F}, \pi) \)が\(\mathscr{G} \)-加群の層であるとは,
(1) 任意の\(x \in X\)に対して,\( \mathscr{F}_x\)が\(\mathscr{G}_x\)-加群.
(2) \(\mathscr{G} + \mathscr{F} = \{ (q,p) \in \mathscr{G} \times \mathscr{F} ; \sigma(q) = \pi(p) \} \)から\(\mathscr{F}\)への写像\( (q,p) \mapsto q \cdot p \)は連続.
をみたすことをいいます.

以下,混乱のない限り層といえばAbel群の層のことをさします.

定義2(層の準同型)\( (\mathscr{F}^\prime, \pi^\prime) \)と\( (\mathscr{F}, \pi)\)が\(X\)上の層であるとする.連続写像\( i : \mathscr{F}^\prime \to \mathscr{F}\)が(層の)準同型(homomorphism)であるとは,
(1) 次の図式が可換である:
f:id:reifrontier:20180201161219p:plain:w200
ただし,\(\mathrm{id}\)は恒等写像を表す.
(2) \(i\)を\(\mathscr{F}^\prime _x \)に制限して,\( i_x : \mathscr{F}^\prime _x \to \mathscr{F}_x\)を定めると,これはAbel群の準同型である.
の2条件を満たすことをいう.
\(\mathscr{F}^\prime \subset \mathscr{F}\)かつ恒等写像\(\mathscr{F}^\prime \hookrightarrow \mathscr{F}\)が層の準同型であるとき,\(\mathscr{F}^\prime\)は\(\mathscr{F}\)の部分層(subsheaf)であるといいます.\(\mathscr{F}^\prime \subset \mathscr{F}\)が\( \mathscr{F}\)の部分層であるには,
(1) \(\mathscr{F}^\prime\)は\(\mathscr{F}\)の開集合.
(2) \(\pi(\mathscr{F}^\prime) = x\).
(3) \(\mathscr{F}^\prime_x \equiv \pi^{-1}(x) \cap \mathscr{F}^\prime \)は\(\mathscr{F}_x\)の部分群.
の3条件を満たすことが必要十分です.\(\mathscr{F}^\prime\)が\(\mathscr{F}\)の部分層であるとき,$$\mathscr{F}^{\prime \prime } _x = \mathscr{F}_x / \mathscr{F}^\prime_x$$とおき,\(h_x : \mathscr{F}_x \to \mathscr{F}^{\prime \prime}_x\)を標準的全射とし,さらに$$\mathscr{F}^{\prime \prime} = \bigsqcup_{x \in X}\mathscr{F}^{\prime \prime}_x \ ,\ (直和) $$とおき,\(h : \mathscr{F} \to \mathscr{F}^{\prime \prime}\)を\(h_x\)の拡張として定義します.\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)に\(h\)による商位相をいれると,\(\mathscr{F}^{\prime \prime }\)はまた\(X\)上の層となっています.\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)を\(\mathscr{F}^\prime / \mathscr{F}\)と書き,商層(quotient sheaf)といいます.
環の層,環の層を係数とする加群の層に対しても,準同型が同様に定義できます.環の層の部分層,商層なども同様に定義されます.

定義2(層の切断)\( (\mathscr{F}, \pi) \)を位相空間\(X\)上の層とする.\(Y \subset X\)に対して,\(Y\)から\(\mathscr{F}\)への連続写像\(s\)で,\(\pi \circ s = \mathrm{id}\)となるものを\(Y\)上の\(\mathscr{F}\)の切断(section)といい,その全体を\(\Gamma(Y;\mathscr{F}) \)と表す.切断に,\(Y\)の各点上で茎\(\mathscr{F}_x\)の演算を施すことにより,\(\Gamma(Y;\mathscr{F})\)はAbel群となる.
\(x \in X\)を固定し,\(p \in \pi^{-1} (x)\)を任意にとります.\(\pi\)は局所位相同型だから,\(p\)の近傍\(U\)があり,\(\pi|_U:U \to \pi(U) = W\)は位相同型となります.したがって,\(W\)は\(x\)の開近傍であり,\(s = (\pi|_U)^{-1} \in \Gamma(W; \mathscr{F})\)は\(s(x) = p\)を満たします.このことから次の3つの補題が証明されます:

補題1\(W \subset X\)を開集合とする.\(s \in \Gamma(W;\mathscr{F})\)ならば,\(s : W \to \mathscr{F}\)は開写像である.
補題2任意の\(p \in \mathscr{F}\)に対し,\(\pi(p)\)のある近傍で定義された切断で\(p\)を通るものが存在する.
補題3\( \{ s(W) ; s \in \Gamma(W;\mathscr{F}) , W は X の開集合 \}\)は\(\mathscr{F}\)の開集合の基底をなす.
\(s \in \Gamma(W;\mathscr{F}\)であれば,\(s - s \)も\(W\)上の\(\mathscr{F}\)の切断であり,\(s\)によらず定まります.これを\(\mathscr{F}\)のゼロ切断(zero section)といい,\(0 : W \to \mathscr{F}\)で表します.\(0(x)\)とは,Abel群\(\mathscr{F}_x = \pi^{-1}(x)\)のゼロ元に他なりません.

\(i : \mathscr{F}^\prime \to \mathscr{F}\)が層の準同型であるとします.このとき,\(\mathrm{Im} i = i(\mathscr{F}^\prime) \)は\(\mathscr{F}\)の部分層です.また,\(\mathrm{Ker} i \subset \mathscr{F}^\prime\)は,\(i\)で\(\mathscr{F}\)のゼロ切断の像\(\{ 0(x); x \in X \} \)にうつる\(\mathscr{F}^\prime \)の元から成ります.切断の像は開集合なので,\(\mathrm{Ker} i\)は開集合の連続写像による逆像だから開集合であり,したがって\(\mathscr{F}^\prime\)の部分層となっています.

層の準同型からなる完全列を考えることもできます.$$\mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F} \xrightarrow{h} \mathscr{F}^{\prime \prime}$$が(第二項において)完全であるとは,$$\mathrm{Im} i = \mathrm{Ker} h$$であることと定義します.$$ 0 \rightarrow \mathscr{F}^\prime \xrightarrow{i} \mathscr{F} \xrightarrow{h} \mathscr{F}^{\prime \prime} \rightarrow 0$$が完全列であるための必要十分条件は,\(\mathscr{F}^\prime\)が\(\mathscr{F}\)の部分層(と同型)であり,\(\mathscr{F}^{\prime \prime}\)が商層\(\mathscr{F} / \mathscr{F}^\prime \)(と同型)であることです.

切断に話題を戻します.\(Y^\prime \subset Y\)であれば,\(Y\)上の\(\mathscr{F}\)の切断\(s \in \Gamma(Y;\mathscr{F})\)を\(Y^\prime\)に制限することにより,\(Y^\prime\)上の\(\mathscr{F}\)の切断$$S|_{Y^\prime} \in \Gamma(Y^\prime ; \mathscr{F})$$が定まります.これを,\(s\)の\(Y^\prime\)への制限(restriction)といいます.
次の補題が成り立ちます:

補題4\(W_1, W_2 \subset X\)を開集合とする.\(s_j \in \Gamma(W_j ; \mathscr{F}) , j = 1,2\)として,$$W_0 = \{ x \in W_1 \cap W_2 ; s_1(x) = s_2(x) \}$$とおけば,\(W_0\)は\(X\)の開集合である.
(証明) \(W = W_1 = W_2\)と仮定してよい.\(s = s_1 - s_2 \in \Gamma(W; \mathscr{F})\)とおけば,$$W_0 = s^{-1} \{ 0(x) ; x \in W \}$$は開集合の連続写像による逆像なので開集合である.■

層は一般にはHausdorffの分離公理を満たすとは限りませんが,次の命題が成立します:

命題1層\(\mathscr{F}\)がHausdorffの分離公理を満たすための必要十分条件は,任意の\(W_1, W_2 \subset X \)と\(s_j \in \Gamma(W_j ,\mathscr{F}) , j = 1,2 \)に対し,上に定めた\(W_0\)が\(W_1 \cap W_2\)の閉集合となることである.


次回に続きます.

Brown運動と確率積分:その3

レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です。
前回の記事の続きを書いていきます。

確率積分

Brown運動\( (B_t(\omega) )_{t \geq 0}\)と関数\( f : \mathbb{R} \to \mathbb{R}\)について、積分\(\int_0^t f(B_s(\omega) )\, dB_s(\omega) \)を定義することを考えます。Brown運動の全変動は確率1で無限大なので、積分\(\int_0^t f(B_s(\omega) )\, dB_s(\omega) \)を通常のStieltjes積分として捉えることはできません。たとえば、$$\int_0^1 B_s\, dB_s$$をRiemann-Stieltjes積分の類似物として定義することを試みてみましょう。区間\([0,1]\)を\(n\)等分し、分点を\(t_k = k/n ,\ k = 0,1,\dots ,n\)とおき、Riemann和$$S^{(n)} := \sum_{k = 1}^n B_{s_k} (B_{t_k} - B_{t_{k-1}}) ,\ s_k \in [t_{k-1}, t_k]$$を考えます。Stieltjes積分では\(s_k \in [t_{k-1}, t_k]\)をどのようにとっても\(S^{(n)}\)は\(n \to \infty\)で同じ値に収束します。しかし、左側の点をとり\(s_k = t_{k-1}\)とした和を\(\underline{S}^{(n)}\)、右側の点をとり\(s_k = t_k\)とした和を\(\overline{S}^{(n)}\)とおけば、$$\begin{align} \overline{S}^{(n)} - \underline{S}^{(n)} &= \sum_{k =1}^n (B_{t_k} - B_{t_{k-1}})^2 \\ & \to 1 \qquad \text{ in } L^2 \qquad(\because 命題4の証明より)\end{align}$$となってうまくいきません。確率積分ではStielthes積分とは異なり、被積分関数\(f(B_{s_k})\)について\(s_k\)をどこにとるのかを決めなければいけません。ここでは、左側の点をとったものを確率積分として採用します:

定義2.(伊藤の確率積分)\( (B_t)_{t \geq 0}\)をBrown運動とする。関数\(f(B_t)\)と区間\([0,t]\)の分割の列\(\Delta_n = \{ 0 \leq t_1^{(n)} < t_2^{(n)} < \cdots \},\ n = 1,2,\dots \)について、和$$S_t^{(n)} := \sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n} f(B_{t_{k-1}^{(n)}})(B_{t_k^{(n)}} - B_{t_{k-1}^{(n)}})$$が条件\(\sum_{n = 1 }^\infty < \infty\)のもとで\(n \to \infty\)としたときある確率変数に収束するならば、それを\(f\)のBrown運動\( (B_t) \)に関する(伊藤の)確率積分(stochastic integral)といい、$$\int_0^t f(B_s)\, dB_s$$と書く。
実際はもっと広いclassのもとで定義できますが、ここでは割愛します。
簡単な例を計算してみましょう。$$\int_0^t B_s\, dB_s$$を求めてみます。\(\sum_{n = 1 }^\infty < \infty\)なる分割の列\(\Delta_n = \{ 0 \leq t_1^{(n)} < t_2^{(n)} < \cdots \},\ n = 1,2,\dots \)を任意にとります。恒等式$$B_{t_k^{(n)}}^2 - B_{t_{k-1}^{(n)}}^2 = 2 B_{t_{k-1}^{(n)}} (B_{t_k^{(n)}} - B_{t_{k-1}^{(n)}}) + (B_{t_k^{(n)}} - B_{t_{k-1}^{(n)}})^2$$において\(k\)について和をとってから\(n \to \infty\)とすれば、定理3により、$$B_t^2 - B_0^2 = \lim_{n \to \infty}\sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n}B_{t_{k-1}^{(n)}} (B_{t_k^{(n)}} - B_{t_{k-1}^{(n)}}) + t$$ゆえに$$\int_0^t B_s\, dB_s = \frac{1}{2} B_t^2 - \frac{1}{2} t$$と求まります。\(t\)についての項が加わっているという点で、通常のStieltjes積分とは異なっています。

伊藤の公式

上の例で、確率積分では通常のStieltjes積分とは異なる計算結果が得られることを見ました。このことは、直感的には次のように理解されます: 
\(f\)をなめらかな関数とし、\(f(B_t)\)の微小変化をTaylor展開によって$$df(B_t) = f^\prime (B_t) dB_t + \frac{1}{2} f^{\prime \prime} (B_t) (dB_t)^2 + \frac{1}{6} f^{\prime \prime \prime} (B_t) (dB_t)^3 + \cdots$$と近似することを考えます。ここで、\( (dB_t)^2 = dt\)として、\(dt\)より小さい微小項を無視すれば、\(df(B_t) = f^\prime (B_t) dB_t + \frac{1}{2} f^{\prime \prime} (B_t) dt \)となります。これを積分で書き、\(f(x) = x^2\)とすれば上の例の計算結果が直ちに出ます。2次変分を用いて直接計算できたのは、Taylor展開(計算に用いた恒等式に他なりません)がそもそも2次までしかないからです。
これを定理の形で述べたものが、伊藤の公式と呼ばれるものです:

定理4.(伊藤の公式)\(f \in C^2(\mathbb{R})\)とし、確率過程\(X_t\)が$$X_t(\omega) = X_0(\omega) + \lambda B_t(\omega) + A_t$$の形であるとする。ただし、\( (B_t) \)はBrown運動、\(\lambda\)は定数、\(A_t\)は\(A_0 = 0\)かつ任意の有界区間上で有界変動とする。このとき、確率1で$$f(X_t) - f(X_0) = \int_0^t \lambda f^\prime (X_s)\, dB_s + \int_0^t f^\prime (X_s)\, dA_s + \frac{1}{2} \int_0^t \lambda^2 f^{\prime \prime} (X_s)\, ds,\ t \geq 0$$が成立する。
\(A_t\)は有界変動なので\(dA_t \sim dt\)だと思えば、これは上の直感的な議論と同様の考え方で導出できます。一般には\(X_t - X_0\)がいくつかの確率積分と有界変動関数の和の場合にも同様のことが示されます。ここでは伊藤の公式を証明抜きで認めることにして、経済学への一つの応用例を紹介します。
\(\alpha > 0, \beta > 0\)とし、\(X_t = \alpha B_t + (\beta - \alpha^2/2)t\)とおきます。\(f(x) = e^x\)について伊藤の公式を適用すれば、$$\begin{align} \exp (X_t) - \exp(X_0) &= \int_0^t \alpha \exp (X_s)\, dB_s + \int_0^t \exp (X_s) (\beta - \alpha^2/2)\, ds + \frac{1}{2} \alpha^2 \exp (X_s)\, ds \\ &= \int_0^t \alpha \exp (X_s)\, dB_s + \int_0^t \beta \exp (X_s)\, ds . \end{align}$$\(S_t := \exp (X_t)\)とおき、微分形に書き直せば、$$\frac{dS_t}{S_t} = \alpha dB_t + \beta dt$$という表示を得ます。\(S_t\)は幾何Brown運動(geometric Brownian motion)といわれるものです。\(S_t\)を株価とみれば、左辺は微小時間での株価の伸び率を意味し、上の方程式は株価の伸び率にランダムな変動が加わっていると解釈できます。これはBlack-Scholesモデルと呼ばれ、確率微分方程式(stochastic differential equation)の一種です。多数の要因によって影響を受けることが不規則な運動をもたらすというBrown運動の発送は株価変動と相性がよく、金融工学において伊藤の公式は基本的な道具となっています。

参考文献

[1] 舟木直久(1997), "確率微分方程式", 岩波書店
[2] 西尾真喜子(1978), "確率論", 実教出版
[3] Henry P. McKean Jr.(1969), "Stochastic Integrals", Academic Press
[4] 河野敬雄(1995), "Brown運動とその周辺", http://www.math.kobe-u.ac.jp/publications/rlm01.pdf

Brown運動と確率積分:その2

レイ・フロンティア株式会社のデータアナリストの齋藤です。
前回の記事の続きを書いていきます。

Brown運動のHölder連続性

\( (B_t)_{t \geq 0}\)をBrown運動とします。
前記事で触れたように、Brown運動のsample pathは確率1で連続ですが無限の全変動をもちます。その他にも、確率1でいたるところ微分不可能であり、もっと詳しくいうと、1/2次Hölder連続よりもやや悪いくらいの連続性をもつことが知られています。本記事ではこれを示します。

次の定理を示します:

定理2.(Brown運動のHölder連続性)Brown運動\( (B_t)_{t \geq 0}\)に対して、$$\lim_{h \to 0} \sup_{\substack{0 \leq |s-t| \leq h \\ 0 \leq s,t \leq 1}}\frac{|B_s(\omega) - B_t(\omega)|}{\sqrt{2h\log 1/h}} = 1 \ \text{a.s.}$$が成り立つ。
(証明) まず下からの評価を示す。\(g(h) := \sqrt{2h\log 1/h}\)とおく。\(\forall \varepsilon > 0\)に対して、$$\begin{align} &P \left( \max_{1 \leq k \leq 2^n} \{ B_{k/2^n}(\omega) - B_{(k-1)/2^n}(\omega) \} \leq (1 - \varepsilon ) g(1/2^n) \right) \\ &= \left( 1 - \int_{(1 - \varepsilon) \sqrt{2 \log 2}\sqrt{n}} p(1,x)\, dx \right)^{2^n}\ (\because 定義1(iii)より)\\ & = (1 - I_n)^{2^n}\ (積分を I_n とおいた)\\ &< \exp(-2^n I_n) . \end{align}$$ここで、部分積分により、実数\(a > 0\)に対して、$$\int_a^\infty e^{-x^2/2}\, dx = \int_a^\infty \left( -\frac{1}{x} \right) \cdot \left( e^{-x^2/2} \right)^\prime\, dx = \frac{e^{-a^2/2}}{a} - \int_a^\infty \frac{1}{x^2} e^{-x^2/2}\, dx$$より、$$\frac{e^{-a^2/2}}{a} \geq \int_a^\infty e^{-x^2/2}\, dx \geq \frac{e^{-a^2/2}}{a} - \frac{1}{a^2} \int_a^\infty e^{-x^2/2}\, dx$$したがって$$\frac{e^{-a^2/2}}{a} \geq \int_a^\infty e^{-x^2/2}\, dx \geq \frac{e^{-a^2/2}}{a + 1/a} \qquad \cdots (\ast)$$を得る。これを用いると、十分大きな\(n\)について$$2^nI_n \geq Const. \times \frac{2^n}{\sqrt{n}}\exp(-(1 - \varepsilon)^2 \log 2 \times n) \geq 2^{\delta n} ,\ \delta > 0$$がいえる。\(exp(-2^{\delta n})\) は収束級数の一般項なので、Borel-Cantelliの補題により、$$P\left( \max_{1 \leq k \leq 2^n} \{ B_{k/2^n}(\omega) - B_{(k-1)/2^n}(\omega) \} \leq (1 - \varepsilon ) g(1/2^n)\ \text{i.o.} \right) = 0.$$これは$$\liminf_{n \to \infty} \max_{1 \leq k \leq 2^n} \frac{ B_{k/2^n}(\omega) - B_{(k-1)/2^n}(\omega) }{g(1/2^n)} > 1 - \varepsilon \quad \text{a.s.}$$を意味するが、$$\lim_{h \to 0} \sup_{\substack{0 \leq |s-t| \leq h \\ 0 \leq s,t \leq 1}}\frac{|B_s(\omega) - B_t(\omega)|}{\sqrt{2h\log 1/h}} \geq \liminf_{n \to \infty} \max_{1 \leq k \leq 2^n} \frac{ B_{k/2^n}(\omega) - B_{(k-1)/2^n}(\omega) }{g(1/2^n)}$$であり、\(\varepsilon > 0\)は任意だったので、下からの評価はいえた。
次に上からの評価を示す。\(\forall \varepsilon > 0\)について、\(\delta\)を\( (1 + \varepsilon)^2 > (1 + \delta)/(1 - \delta)\)をみたすように十分小さくとる。このとき、$$\begin{align}&P \left( \max_{\substack{1 \leq k = j - i \leq 2^{\delta n} \\ 0 \leq k < j \leq 2^n}} |B_{j / 2^n}(\omega) - B_{i / 2^n}(\omega)| \geq (1 + \varepsilon) g(k/2^n) \right) \\ &\leq \sum_{\substack{1 \leq k = j - i \leq 2^{\delta n} \\ 0 \leq k < j \leq 2^n}} 2 \int_{(1 + \varepsilon) \sqrt{2 \log (2^n / k)}}^\infty p(1,x)\, dx \quad (\because 定義 1 (iii)) \\&\leq Const. \times \frac{2^{(1 + \delta) n}2^{-(1 - \delta)(1 + \epsilon)^2 n}}{\sqrt{n}}\quad (\because 不等式(\ast))\\ &\leq \frac{2^{-\gamma n}}{\sqrt{n}},\quad \gamma > 0 \qquad (\because \delta のとり方から) \end{align}$$がいえる。\(2^{-\gamma n}/\sqrt{n}\)は収束級数の一般項なので、Borel-Cantelliの補題により、確率1で\(n_0 = n_0(\omega)\)が存在して、\(\forall n \geq n_0, \forall (j - i) = k \leq 2^{\delta n}\)に対して、$$|B_{j / 2^n}(\omega) - B_{i / 2^n}(\omega)| \leq (1 + \varepsilon)g(k/2^n)$$が成り立つ。いま、実数\(s,t\)を\(0 \leq s \leq t, 2^{-(n+1)(1-\delta)}\leq t - s \leq 2^{-n(1 - \delta)}\)となるようにとる。\(s,t\)を「2進数展開」し、$$\begin{align} & s = i/2^n - 1/2^{p_1} - 1/2^{p_2} - \cdots \quad (i,p_1,p_2, \dots は正整数, n < p_1 < p_2 < \cdots) \\& t = j/2^n + 1/2^{q_1} + 1/2^{q_2} - \cdots \quad (j,q_1,q_2, \dots は正整数, n < q_1 < q_2 < \cdots) \end{align}$$と表現すれば、\(i,j\)は\(s\leq i/2^n \leq j/2^n \leq t , 0 < k = j - i \leq (t - s) 2^n < 2^{\delta n}\)をみたす。\(s,t\)の最初の\(m\)項で打ち切った部分和を\(s_m , t_m\)とおけば、三角不等式により$$\begin{align}|B_t(\omega) - B_s(\omega)| &\leq \sum_{m = 1}^\infty |B_{t_{m+1}}(\omega) - B_{t_m}(\omega)| + |B_{i / 2^n}(\omega) - B_{j/2^n}(\omega)| + \sum_{m = 1}^\infty |B_{s_{m+1}}(\omega) - B_{s_m}(\omega)|\\ &\leq \sum_{p = n+1}^\infty (1 + \varepsilon) g(1/2^p) + (1 + \varepsilon) g(k/2^n) + \sum_{q = n+1}^\infty (1 + \varepsilon) g(1/2^q) \end{align}$$となる。十分大きい\(n\)に対して、$$\begin{align} \sum_{p = n+1}^\infty g(1/2^p) &= \sum_{p = n+1}^\infty \sqrt{2 \log 2 \cdot p/2^p} \\ &\leq \sum_{p=n+1}^\infty Const. \times \left( \sqrt{2 \log 2 \cdot p/2^p} - \sqrt{2 \log 2 \cdot (p-1)/2^{p-1}} \right)\\ &= Const. \times \sqrt{2 \log 2 \cdot n/2^n} \\ &= Const. \times g(1/2^n) \\ &< \varepsilon g(2^{-(n+1)(1-\delta)}) \end{align}$$したがって、$$|B_t(\omega) - B_s(\omega)| < (1 + 3 \varepsilon + 2 \varepsilon^2) g(t-s)$$を得る。これは$$\lim_{h \to 0} \sup_{\substack{0 \leq |s-t| \leq h \\ 0 \leq s,t \leq 1}}\frac{|B_s(\omega) - B_t(\omega)|}{\sqrt{2h\log 1/h}} \leq 1 + 3 \varepsilon + 2 \varepsilon^2$$を意味し、\(\varepsilon > 0\)は任意だったため上からの評価もいえた。■

定理2から、各\(t \in (0,\infty)\)に対して\(\frac{B_{t+h} - B_t}{h}\)は\(h \to 0\)で発散することがわかります。これまでの考察から、Brown運動は確率1で、「連続であるが、いたるところ微分不可能であり、任意の区間で無限に変動する」という、「普通の連続関数」とは異質なふるまいをすることがわかります。

Brown運動の微小変化

確率解析の理論においては、次の定理も重要です:

定理3.(Brown運動の2次変分)\(T > t > 0\)を固定し、\(\Delta_n = \{ 0 \leq t_1^{(n)} < t_2^{(n)} < \cdots \}, n = 1,2,\dots \)を区間\([0,T]\)の分割の列とし、\(\Delta_n(t) = \{ t_k^{(n)} \in \Delta_n ; t_k^{(n)} \leq t \} , |\Delta_n| = \sup_k |t_k^{(n)} - t_{k-1}^{(n)}| < \infty\)とする。このとき、$$\sum_{n = 1}^\infty |\Delta_n| < \infty$$ならば$$\lim_{n \to \infty}\sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n(t)}|B_{t_k^{(n)}}(\omega) - B_{t_{k-1}^{(n)}}(\omega)|^2 = t \qquad \text{a.s.}$$である。
(証明)$$V_n := \sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n(t)}\left( |B_{t_k^{(n)}} - B_{t_{k-1}^{(n)}}|^2 - (t_k^{(n)} - t_{k-1}^{(n)}) \right)$$とおく。定義1(iii)より、$$(E[V_n^2] = 2 \sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n(t)}(t_k^{(n)} - t_{k-1}^{(n)}) \leq 2 |\Delta_n| \sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n(t)}(t_k^{(n)} - t_{k-1}^{(n)}) \leq 2 t |\Delta_n|$$と計算できるから、仮定より、$$E\left[ \sum_{n=1}^\infty V_n^2 \right] = \sum_{n=1}^\infty E[V_n^2] \leq 2 t \sum_{n=1}^\infty |\Delta_n| < \infty . $$したがって、$$\sum_{n = 1}^\infty V_n^2 < \infty \qquad \text{a.s.}$$ゆえに、$$\lim_{n \to \infty} V_n = 0 \qquad \text{a.s.}.$$これと\(\sum_{t_k^{(n)} \in \Delta_n(t)}(t_k^{(n)} - t_{k-1}^{(n)}) \to t\)から結論が得られる。■

この結果は、標語的に言えば\(\int_0^t (dB_t)^2 = t\)ということで、微分の形で書けば$$(dB_t)^2 = dt$$となり、「Brown運動は時間変化の1/2乗くらいのひろがりをもつ」ということを意味します。このことは、今までに示してきた、

  • 共分散\(E[B_tB_s]\)が\(O(t)\)となること(命題1)
  • Brown運動の性質が時間を\(c^2\)倍に縮めて変異を\(c\)倍に伸ばすと保持されること(命題2)
  • 拡散方程式\(u_t = 1/2 u_{xx}\)の解が自然に得られること(命題3)
  • 各\( (B_t(\omega) )\)は1/2次くらいのHölder連続性をもつこと(定理2)

など様々な事実から類推されることですが、厳密には確率積分の理論によって定式化され、伊藤の公式とし知られています。

次回に続きます。